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敏洋’s 昭和の恋物語り

愛の横顔 〜100万本のバラ〜 (十七) 

2023年11月15日 外部ブログ記事
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 久しぶりのステージだった。会社創立五十周年記念パーティのアトラクションして、フラメンコダンスが指名された。会長の肝いりで決まったショーで、栄子の所属する教室に突然のオファーが舞いこんだ。会長がパトロンを務めるダンサーが突然に断ったゆえのことだった。スペインでのショー出演に飛びついたとの情報も流れた。そのため関係が切れたという噂も飛び交った。
 栄子にとっては、千載一遇のチャンスだ。会長に自身の踊りを見せることでアピールができるというものだ。パトロン関係が成立すれば、潤沢な資金援助を期待できる。うまくすれば独立することさえ可能なのだ。もちろんその裏には愛人という文字がちらついてはいる。八十に手が届こうかという年齢がどう転ぶのか…栄子には分からない。
 健二が顔を合わせる度に「やめろ、やめろ。年寄りの玩具になるつもりか! おれの惚れた女は、そんな女じゃないはずだ」と噛み付いてくる。分かっている、栄子を思っての言葉だとは理解している。定型的に考えれば、いい話なのだ。といって、パトロンとしての契約がせ成立しているわけではない。あくまでその可能性がある、ということだけなのだ。なのだが、健二が否をとなえる。純粋に世俗のそうした流れに身を投じてほしくないという思いなのか。それともそのなかに嫉妬心が入っているのか……。だが栄子は「あたしの好きにするわよ。応援してくれなくてもいいけど、邪魔はしないで!」とゆずらない。
 そして秋も深まった十一月の今日、ホテルの大広間をつかってのパーティが催された。式典の後に、いよいよアトラクションへと移る。「五分前です、よろしくお願いします」。ホテルの従業員から声がかかる。ガヤガヤと騒がしかった控え室が静まりかえり、ピンと張り詰めた空気がただよった。「栄子。いいわね、スタートが大事よ。ざわついている観客をだまらせなさい。あなたはスターなのよ!」
 軽く床を鳴らしてみる。鎮痛剤が効いているのか、足首に痛みがない。思いっきり床を叩けそうだ。“いいわね、栄子。きょうが勝負よ!”。頬をパンパンと叩いて、気合いを入れた。
「大変お待たせ致しました。アトラクションに入らせていただきます。フラメンコショーでございます。ダンサーは、世界的ダンサーとして知られる…えっ? 代わったの…」 会場から失笑がもれ、失望の声がささやき交わされた。「やっぱり別れたんだ…会長」。「それでもフラメンコかよ、よっぽど好きなんだな」。「坂本香澄さんじゃないの、なーんだ」。そんな落胆のため息も漏れた。
「失礼しました。では、ご登場願いましょう。木内フラメンコ教室の皆さまです。盛大な拍手をお願いいたします」 屈辱だった。代役となったことが、マイクで拾われてしまった。栄子の名前も伝わっていない。そしてそして、なにより栄子を傷つけたのは観客の失笑だった、ため息だった。聞こえよがしに「歌謡ショーが良かったよなあ」との声が、そこかしこからあがった。

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