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敏洋’s 昭和の恋物語り

[宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!  (四十) 

2024年01月19日 外部ブログ記事
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(舟島 三)
 時折前髪を揺らす風を、小次郎は心地よく受け止めていた。いら立っていた気持ちも、少しずつ穏やかさを取り戻した。ギラギラと輝く太陽の下、海は凪いでいる。
時折立つ白波の中に、一艘の小舟が見えた。船頭がゆっくりと櫓を漕いでいる。「大方、漁師であろう」と囁き合う武士たちに対して「この島を絵師に描いてもらうも一興よ。あの岩礁を背にして立つ我も良しか」と、声をかけた。
 さすがに小次郎殿だとうなずき合う武士たちに、薄ら笑いを見せる小次郎だった。今の小次郎には、ムサシとの試合が遠い異国での話のように感じられる。これから始まる死闘が、まるで他人事のように感じられた。
 焦点の合わぬ小次郎の目に、死の床に伏せった恩師鐘巻自齋が浮かび上がった。師である自齋を、大勢の門弟の前で、完膚なきまでに倒した小次郎だった。それが因で床に伏した自齋、ひと月を経た後に「お前は、お前を作り上げたものによって滅ぼされるのだ」と、言葉を遺して息絶えた。
 前髪が目に入り我に返った小次郎の口から「ふっ、笑止な。こののちわたしは、天上天下一の剣神になるのだ」と、誰に言うでもなくこぼれた。
 浜辺に小舟が乗り上げると、むしろの下からムサシが飛び出した。「 ムサシが来たぞお!」 どっとざわめく武士たちが、「おおーっ!」と、歓声をあげた。小次郎は、その声を聞くや否や、弾かれたように立ち上がった。太陽を背にしたムサシの姿は、頑強だった。誰からともなく、声が飛んだ。「 鬼神だあ!」
 小次郎は、舟から砂地に飛び降りたムサシに向かって、叫んだ。「待ちかねたぞ、ムサシ! 吾は、巌流佐々木小次郎なり! ムサシ殿に…」「いざいざ、いざあ!」 小次郎の声を遮って、ムサシの声が浜辺一帯に響いた。およそ人の声とは思えぬ野太い声に、一瞬間小次郎はたじろいだ。
 名乗り口上途中においての罵声など思いもかけぬことだった。互いに名乗り合い、剣を構え、そして「始め!」の声でもって試合が始まる。小次郎の仕儀は、様式に則るものだった。

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