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敏洋’s 昭和の恋物語り

愛の横顔 〜100万本のバラ〜 (十六) 

2023年11月08日 外部ブログ記事
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 こんやは人恋しくもある栄子だ。35才という年齢が、現実感をともなって栄子に襲いかかっている。そんなときの正男の出現だ。なにかしら運命めいたものを感じてしまう。正男にしてもそうだ。バイト先の居酒屋を出たのが、10時過ぎだった。平日の夜では、客の入りも悪い。先月に時給がアップされたとたんに、一日の時間管理がきびしくなった。この間までなら「沙織に会える」とばかりに小躍りする正男だった。しかし今夜は……。そのまま自宅に帰る気にもなれず、行くあてもなくタクシーに乗り込んでしまった。そして交差点での酔っ払い、車を降りたところで栄子を見つけた。
? 正男が目ざめたとき、まるで見覚えのない部屋にいた。殺風景なへやで、廉価なビジネスホテルまがいに感じた。身体をおこして、まず目に飛びこんだのは、全身がうつりこむほどの特大ミラーだった。しかもしかも壁いっぱいに五枚ほどが並べられてあるのに驚かされた。またべつの壁には、、ひと月ごとのカレンダーが貼ってあり、予定らしきものがびっしりと書きこまれている。なぐり書きされたそれは、正男には判読不能な未知のもじで、記号にすら見えた。
 布団のなかにぬくもりがある。誰かいるのかと手を伸ばすと、そこに栄子がいた。かすみがかった頭に、昨夜のことが少しずつ思いだされてきた。顔相を見るというママから「栄子があんたの救い主だよ。母親の呪縛から解き放ってくれる救い主だよ」と、告げられた。さくや酩酊状態の栄子を、送りとどけることになった。タクシーが走り出してしばらく後に「泊まっていきなさい」と酔ったふりをしていた栄子が耳元でささやいた。甘い香りが正男を包みこみ、思わず「はい」と答えてしまった。
 沙織では主導権を持つ正男だが、栄子相手では太刀打ちできない。栄子には、されるがままの正男だった。官能の世界にどっぷりと浸った。語感、体感、そして肉感らのすべてが正男からはなれ、それぞれが暴走を始めた。果ててもはててもなお求め続ける正男、そして応えつづける栄子。ついには正男の意識すらも、正男を見捨てた。“ママが言ってた運命のひとって、栄子さんなんだ!”。そう確信した正男だった。

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