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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百九十二) 

2023年10月10日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 そよそよと多摩川の川べりから風が吹いてくる。きらびやかなネオンサインが焦がす空を、はるかに見ながらふたりして並んでいる。電柱にとりつけてある街灯にむらがる虫が、他の客だ。「どうです、いけるでしょ?」「うん、美味い! と言うのは、失礼か? 仮にもプロの作るものだ、うまいのは当たり前だな。俺たちに合ってるな、この味は。五平にしちゃ、上出来の所を見つけたな」
 熱々のおでんを口にはこびながら、コップ酒を手にする。五平は、ちびりちびりと舐めるように飲んでいる。おだやかな表情の中に、ときおり見せる苦汁の色。武蔵が、口を開いた。「五平、なにを悩んでいるんだ。話してみてくれ。五平の悩みごとは、俺の問題でもあるんだ。俺たちは、血こそつながっていないが、義兄弟なんだ」 じっと五平の横顔を見ながら、五平の口がひらくのを待った。しばらくの沈黙ののちに、やっと五平の口がひらいた。
「社長……」「五平、タケさんでいいよ。いや、タケさんじゃなきゃだめだ」「だめですわ、それは。社長としての武さんに話したいんです」 五平にしてはめずらしく、気色ばんで言い返した。「そうか、社長としての俺か。わかった、こころして聞くよ」「社長。ここらで、身を退かせてもらいたいんで」「身を退くって、おまえ。会社を辞めるってことか? 冗談言うな、悪いじょうだんだぞ、そいつは。五平には、定年なんかないんだぞ。辞めるのは、いや辞められるのは死んだときだ。馬鹿ばかしい、話にならん、そんなことは」 思いもかけないことばに、五平から目をそらして首をふった。
「社長の気持ちは、ほんとにありがたいと思いますわ。ありがたいんですが、もうダメなんですわ。気持ちがね、切れちまったんです。朝起きて、以前なら『よし、やるぞ!』って思えたのが、今は……ないんです。『もうあさか』って、ため息なんですわ、出るのが」 沈んだ声ながらも、はっきりとした口調でいう五平に「だめだ、だめだ。そんなことは許さんぞ。なあ、五平。五平だから言うけれども、俺なあ、長くないかもしれん」と、声をひそめる武蔵だ。 五平のことばに誘われるように、武蔵もまた、弱よわしくつげた。
「なんです、その長くないってのは。変なことは言わないでくださいな。医者に、なんか言われたんですか?」 思いもかけぬ武蔵の告白をきかされて、己の発したことばに驚きを隠せない五平だ。「ふん。医者は、酒をひかえろのお題目さ。そうじゃない、そんなことじゃない。実は、じつは夢見がわるいんだよ、最近。おむかえの夢を見るんだ。親父とお袋らしきふたり連れがな、むかえに来るんだよ」「らしき…って、どういうことです? いやいや、疲れからですよ。喜びが大きすぎて、それにとまどってるんですよ。坊ちゃんの誕生がね、武さんの気持ちをね、目いっぱい高揚させているんだ。その反動でね、わるい夢を見るんですよ」「まあいい、辛気くさい話はやめだ! とに角、五平の退職は認めんぞ。だめだ、だめだ! 親父、もう一杯だ。五平、お前もからにしろ」
「社長…あたしは……」。くらく沈んだ声で、五平がポツリポツリと話しはじめた。「あたしは、いや、あたしなんかが居ても良いんですかね? 厄介者じゃないかと、そう思えはじめて」「待てまて、なに」。口をはさみかける武蔵を制して、五平がつづけた。「竹田も、いっぱしになってきましたしね。もう、あたしの指示なしでも、なんでもこなせるようになりました。徳子との二人三脚で、経理もきちっとやってますし。その徳子も、あたしなんかより竹田との方がやりやすそうですし。それに最近じゃ、仕入れの方も社長におまかせしっ放しですし。なんだか、あたしの居場所がね、なくなっちまったようで……」「とにかくだめだ。この話は、これで終わりだ。いいな、the end だぞ」

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