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敏洋’s 昭和の恋物語り

愛の横顔 〜100万本のバラ〜 (十二) 

2023年10月11日 外部ブログ記事
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 正男が目ざめたとき、沙織の姿はなかった。脇のテーブルに「さきにかえる」との走り書きがあった。沙織の行動が理解できない正男だった。しかし満足感一杯の正男には、どうということもないことだ。それよりも夢に出てきた栄子のことが気になっていた。
 はじめてのフラメンコという踊り、正男には衝撃だった。「たかがダンスだろうが…」という見くだした思いが、見事にくつがえされた。栄子というダンサーがステージ中央に立つと、ギターの調子が変わり、激しいビートを奏ではじめた。カンタオーラの声が、地の底からひびくかのごとくに正男の耳にはいる。パンパンとリズムに合わせた拍手と共に、正男を釘付けにしていく。タンタンと床をふみ鳴らして、悩ましく腰をゆらしながら手首がくねくねと動き、そして怪しげな指先が正男を魅了する。
 激しくゆれるスカートの裾が正男の眼前に飛んでくる。正男は、うっそうとしげる森林の中をさまよっている。いまどこに居て、これからどこに向かうのか、それが分からない。クルリクルリと回りながら、激しく空に巻き上げられるスカートが、正男の脳髄を刺激する。食い入るように見入る正男の姿は、魅了ということばでは言い表せない。激しくたたく靴音が、ややもすると金属音に聞こえるその音が、正男の琴線にふれる。
 一切の俗界から遮断され、正男と栄子だけの異次元に飛んでしまった。知らず知らずに正男の目から涙が溢れ始めた。なぜ涙を流すのか、溢れ出るのか、正男にも分からない。正男を包むバリアに邪魔されて、沙織は触れることもできない。「正男、正男」と沙織が声を掛けても、答えることはない。沙織の声が遠くで聞こえる。のぞき込む沙織の顔が、逆望遠鏡のように遠くに見えた。
 うなだれて静止するダンサー、ギターも奏でることをやめた。カンタオーラも沈黙した。栄子からしたたり落ちる汗が、ステージ上でとび跳ねる。大きな拍手の鳴りひびく中、正男ははっきりとその水音を耳にした。正男を包みこむ踊りに「なんなんだ、これって。フラメンコっていうのは…」と、我にかえった正男だった。夢とはいえ妙に現実感をともなっていた。

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