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敏洋’s 昭和の恋物語り
水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百九十一)
2023年10月03日
テーマ:テーマ無し
五平の自宅がある大田区田園調布近辺での酒盛りとなった。金持ち連中が居をかまえる場、富裕層が暮らす一帯だ。その地に居をかまえるなど五平には思いも付かぬことだったが、同居する真理江のたってのねがいで中古住宅を買いとることを決意した。幸いにも五平には結構な額のたくわえがある。誰とて遺してやることもない金だ。真理江のためならと、決断した。そんな真理江とは、かれこれ五年ほどの付き合いになる。ふらりと立ち寄った一杯飲み屋の女主人だったが、それがかつて女衒時代に遊郭に斡旋した女人だった。
当初は気がつかなかった五平だが、ひとり静かに飲む五平にやたらと女主人がからんでくる。「なんだ、このおんなは?」。奇異な思いをいだいていたが、客が五平ひとりになったときにその旨を告げられた。まさかの再会におどろく五平であり、女衒としての後ろめたさからやっと解放されかけたところであり、女主人の意外なことばに救われる思いだった。「はじめはね、すごくうらんだわよ。父親と、そして五瓶さん、あなたを」。なまめかしい目つきを見せながら話をつづけた。「でもねえ、あのころは、もう生きるか死ぬか、そんなときだったもの。あたしが売られるたことで、家族みんなが生きながらえたんだ、そうおもうとさ」。とつぜんに女主人の目に涙があふれだし、ことばがつまった。
五平の目には、この女主人のことばが嘘であるように感じられた。「すまなかった、ほんとにすまなかった……」。精一杯のことばだった。酔うどころのさわぎではなく、正直のところ、この店にはいるんじゃなかったと後悔の念にかられた。「五平さん、あんたには感謝の気持ちでいっぱいなんだよ。あんたね、こういってくれたんだ。『いやなら、まだまにあうぞ』って。そのことばでね、かくごができたのさ。だけど……ああ、もう。あたしはにな言ってんだろうね。どうにもはなしべたでねえ。いっつもしかられてたよ、あいそがないって」
けっきょく店を早じまいしての、ふたりだけのさしつさされつとなった。女主人の愚痴話をきかされる羽目になった五平だが、帰ろうと思えばかえられないわけではなかった。ただ罪ほろぼしのためと己に言い聞かせてのことだった。そしてぽつりぽつりと話しだした女主人のことばが、五平の心も軽くなっていった。「本音をいうとねえ。いつまでも親をうらむことはできなくてさあ、五平さん、あんたを恨みつづけたんだよ。恨んでうらんで、呪い○してやろうって。でもねえ、ふしぎなもんだね。うらむってことはさあ、その相手のことを思うってことなんだよ。いつの間にか、五瓶さん。あんたのことばっかり考えるようになっちまって。ふふふりーだー。いつのまにか、あんたが好きになってたのかねえ」。そしてその夜から五平の住まいが、一杯飲み屋の二階になった。
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*お知らせ*
10月1日より、[ やせっぽちの愛 ]内において、(水たまりの中の青空)をアップしています。
旧作(ふたまわり)を当ブログにおいて大幅変更していますが、その作品のアップとなっています。
これにより、初回からの一気読みができるようになりました。
ご興味のある方はぜひお出でください。
10月1日現在は、一話〜五話 です。順次、回を進めていきます。
パソコンもしくはタブレットでの閲覧をお勧めします。
>>元の記事・続きはこちら(外部のサイトに移動します)
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