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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百八十五) 

2023年08月23日 外部ブログ記事
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「ほんぎゃあ、ほんぎゃあ!」 ひと際大きな泣きごえが分娩室にひびいたのは、入院翌日の夕方だった。分娩室に入ってから、二十時間を超えるときが流れていた。いくどとなく帝王切開の準備にはいったものの、踏みきれずにいた医師。大きくため息を吐いた。「ふーっ。みんな、ご苦労さん。よく頑張ってくれた、上出来だ。切らずに済んで、なによりだ。婦長、ありがとう。産婆さん、たすかったよ。あんたの声がけが、功を奏したようだ。ありがとう」
 いっとき分娩室から出て休息をとった医師だったが、看護婦に産婆たちは誰も部屋から出ず、というより休息などとんでもない状態だった。叫びつづけるかと思えば、意識をうしないかける状態におちいったりと、様態の安定しない小夜子だった。そしてやっと出産を終え、思いもかけぬプライドの高い医師からねぎらいのことばを受けて、その場に泣き崩れる看護婦もいた。そんな中、達成感とはほど遠い安堵感を感じる婦長、「頼みますよ、婦長。なんとか、帝王切開だけは避けてください」という武蔵のことばが、ずっと耳をはなれなかった。
「御手洗さんですか? いま、ぶじに出産なさいました。ええ、母子ともに健康です。ナスが、ぶら下がってますよ。体重が、三千グラムを超えていました。ええ、おっきい、ほんとに大きい赤ちゃんです」「でかした! でかしたぞ! おいっ、男だ、だんしを産んでくれたぞ!」。武蔵をぐるりとかこんだ男たちにむかってさけんだ。「いゃあ、おめでとうございます、社長」「うお〜お!」 いっせいに歓声があがった。こぶしを突きあげて、声にならぬ雄たけびをあげる者もいた。「ありがとお、ありがとお!」 受話器をもったまま満面の笑みをたたえて、もう片方の手をはげしくなんども突きあげた。
「婦長さん、ご苦労さまでした。先生にもお礼を言っておいてください。おふたりには、しっかりとお礼をさせてもらいます。いやいや、なにをおっしゃる。遠慮はむようですって。わたしの気持ちなんですから。規則? そんなもの、わたしには関係ないことです。感謝の気持ちですから。自分だけ? 大丈夫ですって。ほかの看護婦さんにも、お礼はしますから。婦長さんは、なん時までの勤務ですか? もう帰られる? すこし待っててもらえませんか。先生にも待っててもらってくださいよ。これからすぐに出ますので」 受話器を置くやいなや、「行ってくる、きょうはもどらんぞ。専務、あとをたのむぞ」と、会社を飛びだした。

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