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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百四十六) 

2022年06月15日 外部ブログ記事
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 式の後、新婚旅行を後回しにせざるを得なかった武蔵だった。不満を募らせるれる小夜子をなだめるためにと、「小夜子、お前への愛の証しだ」と、武蔵が刺青を入れた。朱色に彫られたそれは、武蔵の白い肌にくっきりと、そして鮮やかに浮かび上がっている。「いたかったでしょ、いたかったでしょ」と大粒の涙をこぼしながら、頬ずりした小夜子だ。
そして三ヶ月おくれの新婚旅行となった。小夜子にとっては、はじめての旅行だ。東北・北海道への旅行を勧める五平に、「それじゃ、仕事が入ってしまう。小夜子が可哀想じゃないか」と、取り合わなかった。“生まれ故郷に足を”と思ってみなかったわけではない。五平の意がそこにあると分かってもいたが、“苦しかった頃の想い出だけが残る地に行ったところで……”と考えた。
「新婚旅行は、九州だ。海は、どうだ? 海はいいぞ! ずっと沖を見ても、まるで陸地が見えん。水が青いんだ。でな、ずっと先を見ると、キラキラ光ってる。まるで、銀の食器を並べているようだ」「ほんと? ほんとに、お水が青いの?キラキラ光ってるの?」 目を輝かせながら、小夜子が次々と疑問を投げかけた。「海って、ずっとお水ばかりなの? 陸地がないの? お魚がいっぱい泳いでて、お舟より大きなお魚がいるってほんとなの? それから……」
「自分で確かめろ。海辺の旅館に泊まるから、すぐ目の前が砂浜になっている。生垣を出ると、もうそこは砂浜だ」「うわあ、うわあ! いつ、いつ? 明日行くの?」 武蔵の腕を激しく揺さぶる。「そうだな、いつにするかな……」と曖昧に言葉をにごした。「だめ、だめ! 明日、行くの! じゃなきゃ、行かない!」 小夜子頬をぷくうと膨らませると、武蔵の指がその頬を軽く押した。ぶふっと萎む小夜子の唇に、武蔵が軽く接吻する。小夜子と武蔵の、一つの儀式になっている。「明後日だ、明後日の始発で行く。明日は荷物の用意だ」
 そして今、はじめての海で戯れている。思い描いた大海原を眼前にして、大きく息を吐き出した。その先で、沈み行く夕陽が、青いはずの海を赤くしている。“ああ、これが幸せというものなのね”。暖かさの残る砂地に寝そべり、武蔵の指で遊んでいる。「いいこと。物では得られない幸せがあるのよ。お金では買えない幸せがね」 梅子の言葉が思い出される。「お金に執着しただめよ」。式を挙げる前に、幾度となく告げられた。“でもね、梅子姉さん。お金があればこその、この旅行だわ。それに、時間はお金がないと作れないのよ。武蔵の稼ぎがあればこその、今なの”そんな思いから逃れられぬ小夜子だった。

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