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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百四十四) 

2022年06月10日 外部ブログ記事
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 資料に目を落としながら、怪訝な表情を見せた。「うん? 北海道はどうした? 青森までしかないぞ。まさか青函連絡船だからやめたなんていうんじゃないだろうに。陸つづきじゃねえからなんていうなよ。どうせなら、全国総ナメと行こうや」「分かりました、すぐにも調べます。ところで社長、なんで東北はだめだったんで? 手が回らなかったと言えばそうなんですが、らしくないと思ってたんですが」
「いや、どうということはないんだ。まあ、ただ何となくでは、納得できんだろうな」「らしくないです、まったく社長らしくない。まさか方角がわるいなんて言いませんよね」「東北出身なんだよ、俺は。良い思い出がなくってな。ふん、あやうく間引きされかかったんだよ。母親の乳の出が悪くて、虚弱体質に育っちまってな。ひょろひょろだったよ。いま風に言えば、聞くも涙、語るも涙さ。お涙ちょうだいものよ」「そりゃあ、ご苦労なさったんですねえ」「こらっ! 殊勝なことをいいやがって。本心からそう思っているのか? だとしたら、五平。お前とも、本日ただいま、きょう限りだぞ」「へへへ、すみませんです」「まったく……。おまえだって似たようなものだろうが。だいいち、日本全国そこかしこで聞ける話だろうに。『俺はなんて不運なんだ』なんて考える奴は、だめだ。世間さまを恨む奴に、ロクな奴はいない」「まったくその通りで。お情けにすがって生きる奴は、死んだ方がましですよ」「そこまで言ってやるなよ。どうしようもない事情ってのもあるんだ、世の中には。そういうお方には、静かにしててもらうさ」
「ところで、今夜はどうしますか? 繰り出しますか、久しぶりに。電話が入ってましたよ、梅子姐さんから。新婚旅行の土産を待ってるから、帰ったらお出でと」「いや、しばらくは欠勤だ。すかんぴんなんだぜ、いまの俺は。大人しくしてるさ、お家で。小夜子がいない、寂しいお家でな」「らしくもない、らしくもない。それじゃあたしがお相手して、一杯やりますか? 女っ気なしの酒盛りでもしますか?」「いいなあ、そいつも。開店当時を思い出しながらやるか?」「それより、間引き話を聞きたいですよ」「ああ? おれのエレジーものを、酒の肴にしようってか?」

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