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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百九十五) 

2022年02月10日 外部ブログ記事
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「社長、お客さまです」 うつむいたままで徳江が声をかける。“こんな社長、見たことないわ。ほんとにベタ惚れなのね”と思いつつも、嫉妬心がまるで湧いてこない。「お、そうか。お通ししろ 」 愛人でもある徳江に、悪びれることなく小夜子を抱いたまま答える武蔵。小夜子もまた気恥ずかしさなど、まるでない。「じゃ、行くね 」「まあ、待て。見せびらかしてやる。あっという間に広がるぞ。これだからな」と、口の前に手でラッパを作った。
 恰幅の良い、と言うよりは太り気味の男が、つるっ禿げの頭を手巾で拭きながら入ってきた。たれ目のその男、好人物を絵に描いたような風体だ。「高田さん、どうもどうも」「ごぶさたですわ、社長。おや、こちらの女性は? 初めてお目にかかりますな」 ぺこりと頭を下げて「初めまして、小夜子と申します」と行儀良い小夜子。目を細めて見やる武蔵。ついぞ会社では見せない柔和な顔だ。「ひょっとして? 社長、ご妻女? いやあ、社長が自慢するだけのことはありますな。実に可愛らしい娘さんだ」
 しげしげと小夜子を見ながら、小夜子をほめそやす。満足気に頷く武蔵、小夜子はぽっと頬を赤らめた。「武蔵、お邪魔でしょうから、あたし行きます」「うん、気をつけてな。電話しろ、帰る前に」「はい、それじゃ」
 その日の夕方、武蔵と小夜子はいつものレストランで落ち合った。竹田の姉の回復振ぶりは、医者も驚くほどに順調だった。殆んど毎日顔を出す小夜子のおかげで、母親の愚痴を聞かずに済むことが大きかった。「ほんとにお前は疫病神だよ。よほどに悪行を積んだんだろうね、前世では。祈祷師さまのおかげでこの程度で済んでいるけれども、大層な物入りだよ」 竹田の居ない日中に、毎日毎日聞かされる言葉。そして三日と空けずにやってくる祈祷師やら占い師。その度に大枚の金員を差し出す母だ。
 更には、月に一度のお下げ物がある。意味不明の記号のような文字が書いてある空の一升瓶やら、空の木箱。祈祷師曰くに、神さまの息吹が詰まった物だから、決して開けてはならぬ物だ。竹田の稼ぐ給金は、こうして殆んど失くなってしまう。他の二人がせっせと通うキャバレー。時には羨ましいと思うこともあったが、すぐにその思いは消えた。
「勝利。お前は、姉ちゃんが可哀相だとは思わんのか! お前がこうしてたくさんのお給金を頂けるのは、姉が病にかかっているからぞ。神さまが哀れに思われての、お給金なのじゃ」 それが今は、五平の一喝で祈祷師も占い師も来ない。母親もまた、憑き物が落ちたように落ち着いている。なによりも、姉の回復がありがたい。小夜子相手に、将来の夢をかたりはじめた姉が嬉しい。

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