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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百九十六) 

2022年02月10日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「ねえねえ、タケゾー。町子さん、すっかり元気になってくれた。あたしのおかげですなんて、手を合わせるのよ。看護婦さんたちもね、そう言ってくれるの。恥ずかしくなっちゃう」 目を輝かせて武蔵に病院でのことを小夜子が話し始めた。キラキラと輝くその瞳をじっと見つめて、武蔵の頬も緩みっぱなしだ。「そこまで回復したか。小夜子は、そこらの医者よりもずっと名医だな。まだ頑張ってみるか?」「もちろんよ。退院されるまで付きそうつもりよ」
「小夜子。昨日、お前の実家に行かせたよ」 突然の、寝耳に水の武蔵のひと言に、言葉を失ってしまった。見る見る顔が紅潮し、わなわなと唇が震える。「ど、どうして! なんでいきなり行ったのよ! あたしから前もって連絡しなきゃ怒るわよ、きっと」「あたし、タケゾーのお嫁さんになるって、決めてないわよ! タケゾーが勝手に思ってるだけでしょ。なのに会社じゃみんなが『奥さま、奥さま』って。わざと言わせたりして」 顔を真っ赤にして烈火の如くに怒る小夜子に、周囲の客たちがその剣幕に気圧されて席を立ってしまうほどだ。「小夜子、小夜子、落ち着け。皆さん、驚かれてるじゃないか。俺が悪かった、悪かった。な、とに角落ち着いてくれ」
テーブルに頭をこすりつける武蔵の様に、一様に口を開けたままの客たちだった。正に異様な光景だ。としはも行かぬ小娘に、いっぱしの男が謝りつづけるのだから。「あんまりよ、あんまりよ。あたしに黙って……」 次第に涙声になる小夜子だった。アナスターシアの死亡以来、気弱な面を見せる小夜子に、ただただ謝るだけの武蔵だった。武蔵の元に嫁ぐ、小夜子の気持ちの中にあった。武蔵の妻になる、それが最良のことと小夜子も分かっている。しかし、心の隅では反発する気持ちもあった。
“お金に目がくらんだの? 金色夜叉お宮みたいに、正三さんを見限るの! 薄情な女なのね、見損なったわ。天国のアーシアも呆れてるんじゃないの。きっと、アーシアが泣いてるわよ”“違う! そんななじゃない。あたしは薄情な女じゃない。町子さんの看病に、毎日通ってるのよ。みんながあたしをほめてるじゃないの。そうよ、正三さんが悪いのよ。あたしをほっとくなんて”“正三さんに会わなくっちゃ。どうして連絡をくれないのか、葉書の一枚すらも。心変わりしたの?お父さまに負けたの? どうしてもはっきりさせなくちゃ。あたしから引導を渡さなくちゃ”
 そうなのだ、己を納得させる為の儀式が済んでいないのだ。正三の心変わりではなく、正三にに捨てられるのではなく、小夜子の決断としたいのだ。そうでなければならないのだ。 武蔵の小夜子に対する愛情は、疑うべくもない。小夜子の欲すること全てを、武蔵は適えてくれる。小夜子が熱望した女王然とした生活を送らせてくれる。しかし釈然としないものが、小夜子の胸に渦巻いている。それが何なのか、今の小夜子には分からない。
 平塚らいてうに憧れた小夜子。「原始女性は太陽であった」この一文に、小夜子の全てが始まった。

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