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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百七十七) 

2021年12月22日 外部ブログ記事
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“どう、羨しいでしょ? これからお買い物よ”
 大声で叫びたくなる衝動を、ぐっとこらえる小夜子だった。
今日の小夜子は、いつもの小夜子とは少し違っていた。
“ひょっとして今夜……”。そんな予感がある。“もしも迫ってきたら、どうしょう”。
武蔵に言われているわけではないし、そんな素振りを見せているわけでもない。
ただ何となく、感じるのだ。そしてそれが、ちっともいやではないのだ。むしろ当たり前の如くに思える。
 その夜、小夜子が泣いた。激しく泣いた。その涙が、悔し涙なのか嬉し涙なのか、小夜子にも判然としない。
だただ、武蔵の胸の中で、激しく泣いている。
武蔵は、小夜子の濡れたように輝く黒髪を、ゆっくりと撫でている。
赤児をあやす父親のように、時折唇を押しつける。

「いいか、娘々した服にしろよ。うん。いっそのこと、振り袖にするか? 
二十歳の誕生祝いに誂えたろうが。可愛かったぞ、惚れ直した」
「いやぁよ! 生娘じゃないのよ、もう 」
「構うもんか! 振り袖にしろ。みんなを、羨ましがらせてやる。
そうだ、小夜子。結婚式にも、そいつを着てくれ。いやいや、文金高島田ももちろん誂えるさ。両方着ろ 」
「なに、バカ言ってるのよ。振り袖なんか、着られるわけないでしょうが。笑われちゃうわよ」
「構うもんか! いや、笑う奴なんか、俺がぶん殴ってやるさ。
そうだ! まだ小夜子の爺さんにも、見せてないぞ。
どうだ。一度見せに帰るか?」

 そうなのだ、茂作には見せていない。それどころか、結婚の許しすら得ていない。
武蔵の言い付けにも関わらず、手紙で報告をしてしまった。
体を許してしまった今、渋々ながらも許してくれるだろうと考えていた小夜子だった。
しかし結婚ともなれば、一生のことだ。茂作からは、烈火の如くに怒る返事が返ってきた。
「そんなふしだらな女に育てた覚えはないぞ!」と、ある。
「すぐにも戻れ!」と、きつく書いてある。
小夜子の対応如何では、すぐにも迎えに来る勢いだった。

「正三と添うつもりじゃなかったのか!」。それを言われると辛い。捨てられたとは、断じて認められない小夜子だ。
有り得べからざることだ。己が男に捨てられることなど、太陽が西から上りはしても、有り得ないのだ。
しかし未だに何の音信もない。加藤宅には、くれぐれも頼んである。盆暮れの届け物は、決して欠かしていない。
 もっとも、そんなこととは露知らぬ武蔵こそ、いい面の皮である。
せっせせっせと、贈り続けている。
商売に関しては生き馬の目を抜く武蔵も、小夜子に対してはまるでだった。
小夜子にしてからが、正三に未練があるわけではない。
しかし、訳の分からままの宙ぶらりんが納得できない。
そしてなにより、小夜子の意思で、言葉で終わりにしたいのだ。でなければ、小夜子のプライドが許さない。

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