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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百七十四) 

2021年12月15日 外部ブログ記事
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「へい、いらっしゃいぃ!」
「いらっしゃいませ。まあ、やっとお出でいただけましたですね。首を長〜くしてお待ちしておりました」
 威勢の良い声がかかる中、鼻にかかった艶っぽい声があった。
「そうしょっちゅうは、来れんさ。こんな高級鮨店には」
「あらまあ。富士商会の社長さまともあろうお方が、そんな情けないことを。あの可愛い奥、、、」
 千夜子の姿に気付いた女将、次の言葉を呑み込んだ。
「おいおい、変な気を回すなよ。このお方は、小夜子の恩人だ」
「あら、そうでしたの。それは失礼致しました」
 眉をへの字にした大将が、いつもの仏頂面で握っている。
その隣の職人はニコニコと愛想の良い笑顔を見せながら、軽く武蔵に会釈をした。

 武蔵が足を踏み入れたときから、カウンター席の若い女が値踏みするような視線を投げかけている。
その若い女に、初老の男性がひと言ふた言声をかけた。
窘めていることは、若い女が「すみません」と謝った言葉から、すぐに分かった。
多分武蔵への視線を注意したのだろう、その後は武蔵への視線が外れた。
「どうもどうも、お元気ですか」。老紳士に武蔵が声をかけると、席を立ち上がって「おかげさまでね」と声を返した。
二人して奥の方に進むと、小声での話が続いた。

「それじゃ、そういうことで」と話を切り上げた武蔵が、
「なんだ、おい、大将。ネタが少ないじゃないか。それともどこかに隠してるのか?」と、ネタケースを覗き込みながら、不満の声をあげた。
「今夜はとびきりの刺身でもと思ってきたんだぜ。俺に恥を掻かせるなよ」
「すいやせんねえ、社長。でもねえ、御の字でさあ、これで。他所の店を見て見なせえって、哀れなもんですぜ」
「構うもんか、そんなこと。遠慮しないで言ってくれよ。それじゃ、二階に上がらせてもらうよ」
「へい、どうぞどうぞ」

 案内しようとする女将を制して、奥へと千夜子を連れて武蔵が進んだ。
二階には二部屋があるが、余ほどの上客でなければ上がれない雰囲気が、千夜子にはすぐに分かった。
 六畳ほどの部屋に入った千夜子は、「ご常連なんですね、社長さまは」と少し鼻にかかった声を出した。
千夜子の思う以上に富士商会という会社の格が高いことを、認識させられた。
「うん。まあ、何と言いますか。こけおどしのようなもんですよ。
こういう店ですとね、富士商会を、一流会社として見てもらえるんですわ」
「ひょっとして、お魚などを……。やはり、GHQがらみの伝でございますの?」
「まあ、そういうことです。奴さんたちも美味いものを食べたがりますからね」
「左様でございましょうねえ」

 左手は隣の部屋との境となる襖であり、右手は障子付きの二重窓だった。
「この窓から隅田川の花火が見えるんです、そりゃあ豪勢なものです。
ドーンという音がして、ヒュルヒュルという音が続きます。
龍が天に昇るが如くに花火が夜空に駆け上がるところは、なかなかのものです」
「失礼致します」
 静かに襖が開き、女将が酒を運んできた。
「いらっしゃいませ、御手洗社長さま。とりあえずご酒をお持ちいたしました」

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