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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百七十三) 

2021年12月14日 外部ブログ記事
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「おう」。千夜子に対する見栄が働いている武蔵が、女将に横柄に答えた。
普段の武蔵はこんな横柄な言葉遣いはしない。“やはり人の子、世の男性とお変わりないわ”。女将の表情かふっと緩んだ。
「大将お任せ、ということでお宜しいでしょうか」
「あ、わたくしが」
 女将が差し出す徳利を、千夜子が受け取った。
「さ、どうぞ。さすがに丁度お宜しい燗具合でございますわ」
「ごゆっくりどうぞ」

 下がりかけた女将に、武蔵が声をかけた。
「ああ、かまわんよ。美味いものを食べさせてくれ。
大事なお客さんだから、よろしく頼む。小夜子の命の恩人だ」
「かしこまりました。そのように申し伝えます」
 “小夜子さんの恩人ねえ。でももう一つの魂胆が見え見えですよ”。
笑いをこらえきれなくなる女将だったが、顔を畳にこすりつけて、何とかその顔を見せずに済んだ。
襖に手をかけた女将に、更に告げた。「それから、内密の話があるから、呼ぶまで来ないように」

「松尾さんでしたか、よろしければ下の名前を教えて頂けませんか。
僕はですね、女性に対しては、苗字ではなく名前で呼ばせてもらっているんですよ」
「そうでございますの? 失礼いたしました。千夜子と申します。
千夜一夜の千夜子でございます。親がそんな物語りを意識してのことかは分かりませんが」
「そうですか、千夜一夜物語りからですか。それは艶っぽい奥さんにはピッタリですな」
 王妃の不貞から女性不信に陥った王の心を、夜ごとに物語りを語り聞かせることで慰めたシェラザードが、千夜子に被って見える武蔵だった。

「社長さま、違っておりましたらごめんなさい。このお店に、何か便宜をおはかりで?」
「どうしてそう思われます?」
「はい。言葉遣いが、他の方へとはちと違うように聞こえましたので。
下賎な言い方をしますれば、下手に出られているような」
「ほう。鋭いですな、さすがに。細かいところに気が回っておられる。
松尾さんは、客商売が天職のようだ。実は、ちょっとね」
「天職だなんて、ありがとうございます、なによりのお褒め言葉ですわ」
 千夜子の酌を受けながら、酒がすすむ武蔵だ。

「ひょっとして、お魚などを……。やはり、GHQがらみの伝でございますの?」
「まあ、そういうことです。奴さんたちも美味いものを食べたがりますからね」
「左様でございましょうねえ」
「さてと。それでは、千夜子さんも一杯」と、盃を渡した。
 何の飾りもない壁に富士山の絵が掛かっている。
もう少し何か飾りでもと思う千夜子に対し、武蔵が言葉を続けた。
「殺風景な部屋だとお思いでしょうな。僕の提案なんですがね」
 怪訝そうな顔つきを見せる千夜子に対して、小声で「実はですな」と千夜子の耳元に顔を寄せた。

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