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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百七十二) 

2021年12月09日 外部ブログ記事
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「実はご相談と申しますのは、奥さまがお使いになってらっしゃるシャンプーの件でございます。
お恥ずかしい話ですが、あたくしどもの店では手に入らないような商品のようでございまして。
ですのでなんとか、あたくしにお分け頂けないものかと、思いまして」
「はあ? シャンプー、ですか? ハハハ、こりゃ失礼。思いもよらぬことでしたので」
 拍子抜けしてしまう武蔵だ。思いも寄らぬ話に、つい腹を抱えて笑ってしまった。
「髪は、女の命でございます。美しい髪は、永遠の願いなのでございます」
 真剣な眼差しで武蔵に迫る、千夜子だ。
「そんなものですか? 男の僕には、分からんことですなあ」
“こいつは驚いた、金の無心じゃないのか。参ったぞ、こりゃ。当てが外れたな”
「お恥ずかしい話でございますが、同業者が増えてまいりまして。
何か特色を出さないことには、じり貧でございます。パーマネントの機械を入れてはおりますが、これとて他でも」

「なるほど。厳しさは、どちらも同じですな」
 千夜子の切実な声に、武蔵も無節操な考えを捨てた。盃を置いて、進める千夜子に手を振った。
「はい。そんな折りに、奥様の素晴らしいおぐしに出会いまして。
で、お使いのシャンプーをお聞きしたようなわけでして」
 打って変わって、武蔵が射るような視線を浴びせてくる。千夜子もたじろぐことなく、視線を返す。
「分かりました、お譲りしますよ。どうです? いっそ、共同購入を他の店に持ち掛けられては。
千夜子さんには、口銭として売り上げの三分、いや五分差し上げましょう。如何です?」

“どうだい、豪気だろうが。通常、三分のところを五分だとしたんだ。
あの熱海の女将には、三分だからな。飛びついてくるか?”
「有り難いお申し出でございますが、あたくしの店だけというわけには? 
もちろんある程度の量は、引き取らせて頂きます。
と言いますのも、他のお店と違う面を持ちたいものですから。
三、いえ二年で結構でございます。まずあたくしの店で評判を取りまして、その後ということでは? 
その方が、結局は社長さまにもおよろしいかと思いますが」

意外な返事に、武蔵も感心せざるを得ない。目先の利益にくらむことなく、将来を見据える術を持っている千夜子と思えた。
“これは意外に女傑だ。色恋抜きでも、付き合いたい女だ”
「なるほど、なるほど。そうですな、そうしますか。
いや、共同購入の折には、月に一度でもお会いできるかと、少し期待したものですから」
やはり未練の残る武蔵ではあった。生来の浮気癖は、小夜子を娶るからとて消えるものではない。
「あらあら。こちらこそ、お願い致したいことです」
満面に笑みをたたえて、千夜子が言う。

“商売抜きでの付き合いが、できそうな男だわ。奥さまには悪いけど、あたしにも、ね”
“そうか、やっぱりこの女もその気だったか。
それにしても、商才がある。女にしておくのは、勿体ない。
いゃ、女だからこその商売があるかもしれん。会社の女たちの中にも、案外居るのかもな。
明日にでも、話してみるか”
「どうなさいました?ご迷惑ですか、月一度と言うのは」
「いやいや、これは失礼。千夜子さんの商売熱心に感服しまして。つい、見とれてしまいました」
「まぁ、お上手ですこと。ほんとに遊び慣れてらっしゃること」

「そろそろ、鮨をつまみますか?」
パンパンと手を叩き、階下から呼び寄せた。
「ありがとうございます。社長さまには、あたくしもつまんでいただこうかしら」
 妖艶に誘いかける千夜子に、武蔵は背にゾクッときた。
「いや、それは大好物です」

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