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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百七十一) 

2021年12月08日 外部ブログ記事
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「お姫様みたいだって聞いているんですけど」
「小夜子奥さまって美人ですか?」
「背丈はどれ位ですか?」
「笑顔が素敵だって、聞いたんですけど?」
 あっという間に千夜子を取り囲んでの質問攻めとなった。
「いい加減にしろ! 困ってみえるだろうが。失礼しました、中へどうぞ」と、中山が一喝した。
「じゃ、一つだけお答えしますわ。とっても素敵な方ですよ、皆さん。
お会いになられたら、きっとため息をつかれますわよ」
 一斉に、拍手が沸き起こった。

「こら! 何を騒いでるんだ!」と、奥まった部屋から武蔵が顔を出した。
「社長! ほら、美容室の方ですよ」
「ああ、これはこれは。うーんと、俺の部屋でお待ちしてもらえ。
ああ、もう五時になってるじゃないか。すみませんな、少し押していまして」
「お忙しいようでしたら、また日を改めまして」
 若者たちの熱気に押され、またしても気後れしてしまった。
「いやいや、とんでもないです。このお客で今日の仕事は打ち止めですから」

“おいおい。どんなおばさんかと思っていたら、中々のものじゃないか。
俺の直感が当たったな。こんな妙齢の美人を帰すなんて、とんでもない”。
武蔵の悪い癖が出た。
 通された二階の社長室。グルリと壁を見回すが、実に殺風景だ。
部屋の広さに似合わぬ、小ぶりの机が正面にある。
そして書類棚が一つに、帽子掛けがあるだけだ。 壁にしても、絵画の一つも掛かっていない。
銀行名の入った日めくりの暦があるだけだ。

「味気ない部屋ねえ」
 千夜子がポツリと洩らした言葉に
「何もない部屋でしょう? 言われるんですよ、絵ぐらいかざ飾るったらどうだ、と。
ま、好みから言うと、裸婦あたりですかな。ドガの踊り子も、良いかなあ」
「らふですか? ドガの踊り子と言いますと。ああ、ベッドに横たわっている……。まあ、ご趣味がご高尚ですこと」
 突然に声をかけられても動ずることなく、千夜子は受け答えする。

「いやあ、まったくもって、面目ないです。こちらがお伺いしなくちゃいかんのに、ご足労いただきまして。
どうですか、このあと何かご予定はおありですか? よろしかったら、うまい鮨でもつまみせんか?」
“俺としちゃ、あんたをつまみたい心境だがね。
小夜子には若い者を担当させるなんて言ったけれども、とんでもない、俺が担当だ。
さあ、食い付いてくれよ。ここは変に勿体ぶらずに、素直にだ”

「まあ、お鮨ですか? 嬉しいですわ、大好物なんです。もう、予定がありましてもお受けしますわ。
でも、お宜しいんですか。奥さま、お一人じゃございませんか?」
「いや、大丈夫です。付き添いを頼んでおります。小夜子が信頼を寄せてる女が居ましてね。
小夜子を見初めた所の、梅子という女なんですが」
“いかん、いかん。どうして梅子のことまで言うんだ、俺は。
どうもこの女には、隠し事をしたくないと思ってしまう。素の俺を見せたくなってしまう”
「それでは、お供させていただきます」
“甘ちゃんなのかしら? 聞きもしないことまで、ベラベラと。
お坊ちゃん? 二代目なのかしらねえ。どうりで常識にかけるところがあったのね”。
組み易しとほくそ笑む千夜子だ。

柔らかい物腰の中にも、凛とした風情がある。
銀座のクラブママに通じるものを漂わせている。
「それでは、出かけましょうか。お帰りが遅くなると、ご主人に叱られそうだ」
「あたくし、戦争未亡人ですの。母一人娘一人ですから、お気遣いなく」
「ご主人は、どちらで?」
「はい、ニューギニアだと聞いております」
「そうですか、南方は大変でした」
「社長さまも、南方の方でいらっしゃいますか?」
「いや、内地で終戦を迎えました」
“やっぱり、お坊ちゃんね。父親の伝で、内地だったのね”。
抑えがたい憤怒の思いに囚われたが、ぐっと押さえ込んだ。

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