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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百六十六) 

2021年11月25日 外部ブログ記事
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 小夜子の精神状態が見えない現在、どう接すれば良いのか分からない。
“普段通りにしてください”。往診した医者は言う。
たかが町医者の下した診断だ、信頼して良いものか迷ってしまう。逡巡してしまう。
おとぎ話の世界にいるがごとき小夜子なのだ。
話を合わせるといっても、そのままおとぎ話の住人になってしまうのではないかと危惧される。

アーシアは睡眠薬過剰摂取だと理解している。
そして死亡したことも伝わっている。
しかしそれでもアーシアとの会話を、小夜子は口にした。
アーシアの死を、現実のものとして受け入れられないでいる。

 いずれは受け入れさせねばならぬとしても、そのいずれをいつにするか。悩む武蔵だ。
即断即決が心情の武蔵だが、こればかりはそうもいかない
。“医者に相談してみるか、素人考えは生兵法だ”。
“俺が、独断専行の権化と言われるこの俺が、他人の意見に従おうとするなんて。
どんなに高熱を出そうとも「気合いで直せ、直るはずだ」と怒鳴るこの俺が、小夜子には小夜子だけには……”。
“そうか。こいつが、巷間で言われる、発露、心情の発露、というやつなのか”。

「タケゾー……」
「なんだ、どうした?」
 心なしか、小夜子の肩が小刻みに震えている。
小夜子の膝に、ぽたりぽたりと滴がしたたり落ちる。
「アーシアね、アーシアね。死んじゃったの、小夜子を残して死んじゃったの」

 武蔵の膝に顔をうずめて、激しく泣きじゃくった。
武蔵の危惧が吹き飛んだ。小夜子は正気だと確認できたことが何よりだった。
産まれたばかりの赤児のように、激しく激しく泣き叫ぶ小夜子に、これ以上にはない感情の高ぶりを感じる武蔵だった。
「そっか、そっか、死んじゃったのか。アーシアが死んじゃったか。
それで小夜子にお別れを言いに来てくれたのか。
そっか、そっか。可哀相にな、可哀相にな。
けどな、なんの心配もいらんぞ。小夜子は、この俺の宝だ。武蔵の宝物だから」

「タケゾー!ほんとね、ほんとね。小夜子を守ってくれるよね。
ほんとはね、アーシアがね、呼びに来たの。
一緒にこちらで暮らそうって。でもね、小夜子、まだ死にたくないの」
「大丈夫、大丈夫。俺が付いてる、武蔵が守ってやる。
アーシアには、俺から話しておくから。安心してください、ってな」
 小夜子の体を抱き起こすと、涙でくしゃくしゃになった頬に、軽く口を押し付けた。流れ落ちる涙を
「俺のは酒の味がするのに、しょっぱいなあ、小夜子のは。しょっぱいけど、美味しいぞ」と、吸い続けた。
「バカ、そんなこと……」
 小夜子の目が閉じられた。

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