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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百六十二) 

2021年11月17日 外部ブログ記事
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 負の時代を経ての今なのだが、小夜子には我慢ができない。
晴れやかな輝かしい道を歩きたい小夜子にとって、あってはならぬ道程だ。
たとえ今の生活を失っても、消し去りたい思いを抱く小夜子だ。
アナスターシアだけでいい、アナスターシアとの出会いだけでいい。
そう思い続けた小夜子だ。しかし今、そのアナスターシアが消えた。
光り輝くはずだった未来が、消滅してしまった。
なのに小夜子には、他人事のように思える。
「かわいそうな人」と、小夜子が呟く。
そこにいるのは、己ではない別の人間だ。
日々を泣き明かすであろう人、将来に絶望するであろう人、それは決して小夜子ではなかった。
「タケゾー」と呼んだ小夜子、快活に振舞う小夜子。
別人格の如き小夜子、しかしいつまでその小夜子でいられるのか。

 小夜子から、正三への思いが一気に薄らいだ。
思いかえしてみればあくまでアナスターシアあっての正三だった。
アナスターシアを失った小夜子には、正三の居場所はない。
この地に来る弾みをつける役目だった筈の正三だった。
単なるエスコート役の正三を、将来の伴侶と位置付けさせたのは? 
そうなのだ、アナスターシアの通訳を務めた前田なのだ。
前田の何気ない、ひと言だった。
“彼だったら、あなたの意のままじゃない?”。
そのひと言が、小夜子の中に潜む夜叉を呼び起こしたかもしれない。

「小夜子。お前を一番大事に思っているのは、この俺だぞ。
お前の望みを叶えてやれるのは、この俺だぞ」
 そんな武蔵の言葉に、嘘は感じない。
アナスターシアの居ない今となっては、誰よりも小夜子を満足させ得るのは、確かに武蔵なのだ。
しかし、伴侶はあくまで正三でなければならない。
“薄情な女じゃない”。貞節、という二文字が頭から消えない。
“いっそ、この世から消えて……”。
誰のことを思い描いての言葉なのか、武蔵なのか正三なのか、或いは小夜子自身なのか。今の小夜子には判然としない。

 ゆっくりとソファに座らせて、小夜子の額に手を当てた。
「うん、熱は下がったようだな。五平がアイスを買ってくる筈なんだが、食べるか?」
「アイス? 食べる、食べる。そういう五平なら、好きになってもいいけど」
「五平です」
 のっそりと、五平が顔を出した。手に、ドライアイス入りの菓子箱を持っている。
「こりゃお邪魔でしたか? お久しぶりです、小夜子奥さま」
「まだ奥さまじゃないもん」と、膨れる小夜子。
そんな小夜子を愛おし気に見つめる武蔵。
奥さんと呼ばれて、それを否定しなかった小夜子に顔をほころばせだ。
小夜子は、ただただ、五平の手中にある箱に熱視線を送る。

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