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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百五十八) 

2021年11月09日 外部ブログ記事
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「さよこさん。あなた、さよこさんよね。大丈夫?」
「行かなきゃ、行かなきゃ。アーシアが淋しがってるわ」
突然立ち上がった小夜子は、夢遊病者のように、ふらふらと店を出ようとする。
「ち、ちょっと。危ないわ、そんな状態じゃ。ああ、どうしょう」
「ご家族に連絡を入れたら?」
「ご家族と言われても、…。そうだわ! さっき貰ったメモに、会社の電話番号が。すぐかけてみるわ」

「さよこさん! ちょっと待って! 迎えに来てもらいますからね」
 外に出ようとする小夜子を、松子が必死の力で押し止めた。
「そうなんです、心ここにあらず、といった感じなんです。
すぐ来て頂けますか? はい、看板は出しております。
電柱に矢印がありますから、それを見落とさないよう、お願いします。
それじゃ、ごめんくださいませ」

 受話器を置くと、すぐさま長椅子で呆然としている小夜子の隣に座った。
「すぐに車で迎えに来るって。社長さんがお出かけなんで、専務の加藤さんが」
「イヤ、あそこはイヤ! 一人で帰るから。
タクシーを呼んで。一人で帰れるから。早く呼んでえ!」

 ぐったりと力なく座り込んでいた小夜子が、死人のように蒼白い小夜子が、必死の形相で叫んだ。
 五平が来るのだが、加藤という名が耳に入った途端に忌まわしい加藤家が浮かんだ。
やっと抜け出られた加藤家に戻るなど、到底考えられない。
「こんなに嫌がるんだから、タクシーを呼んだ方がいいわよ」
「そうね、分かったわ。すぐ呼びますからね、すぐに」

「アーシアが呼んでる。行かなきゃ、行かなきゃ」と呪文の如くに唸り続ける小夜子だ。
そんな小夜子を見た千夜子が、状況が変わりましたと、再度電話をかけた。
「会社の車はやめてくださいませんか。えらく興奮していらっしゃるんです。
強いご要望で、タクシーを呼びましたので」
「小夜子さん、お電話には出られませんでしょうか? 
状況をつかみたいと仰るんですけど、加藤さんが」「いや、いや、加藤家はイヤ!」。
押し問答を続ける内に、タクシーが到着した。

「さよこさん。来ましたよ、タクシーが。分かりますか? 来たんですよ、タクシーが」
 落ち着かせる為にもと、何度も「タクシーが」と連呼した。
その甲斐あってか、やっと小夜子の表情が穏和になった。
武蔵の元に戻れるという安心感が、小夜子を落ち着かせた。
覚束なくはあるが、何とか自力で立ち上がった。

「ご迷惑をおかけしました。これ、お代金です 」「いえいえ、まだ途中ですから」
「落ち着いたら、改めてお願いしに参ります」「それじゃその折りに頂きます」
 二人の手の間を、和紙の袋がが行き来する。

「貰っときなさい、二度と来やしないわよ」
 痺れを切らせて、松子が千夜子に囁く。しかしそれでは困るのだ。
千夜子は、何としてもシャンプーを手に入れねばならないのだ。
「お気を付けて」。深々とお辞儀で送り出しながら、
“お願いだから、また来てくださいよ”と、念じた。

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