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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百三十二) 

2021年09月08日 外部ブログ記事
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 出かける段になって、武蔵が小夜子に注文を付けた。
活発に動き回りたがる小夜子にとって、武蔵の出不精は不満の大きな種だった。
出不精と言っても、外出を嫌がるわけではない。
ぶらりぶらりと、ただ歩く散歩を嫌う武蔵だった。
なにか目的があっての外出には、否と答えたことは一度もない。
しかし暑い日中やら木枯らしの吹く折ならばいざ知らず、日差しが落ち着いた夕暮れ時や雨上がりの虹を見たいという小夜子の希望には、何やかやと言い訳をしては出かけようとはしない。
そのくせ、外食や買い物ーといっても日常の買い物ではなく、銀座に出かけてのショッピングだがーそして映画鑑賞に観劇は、武蔵が旗を振る。
但し、移動手段に問題がある。

「小夜子、ハイヤーにするか?」
「いいわよ、電車で」
「小夜子は良くても、俺は、どうも人込みが嫌いでな」
 武蔵の人付き合いの悪さは折り紙付きだ。
気心の知れた相手でなければ、儀礼的な挨拶をしただけで席を外してしまう。
しかし、こと利害の絡む商売に関してだけは違ってくる。
途端に饒舌になり、相手の心底を探りだす。
本音を探り出すといえば、五平も人後に落ちないと自負しているが、武蔵のそれは多岐にわたっている。
脅しにすかし、そして泣き落としと、ありとあらゆる術を遣って聞き出してしまう。
相手が武蔵の意のままに操られたと気付いたときには、すでに事が終わっている。
そして、後々まで恨みや禍根を残すことになる。

「なに、可愛いこと言ってるの。分かった、いろんな人泣かせてるから、怖いんでしょ。
大丈夫だって! この小夜子さんが守ってあげるって」
 小鼻を膨らませて、小夜子がポンと胸を叩く。
するとすかさず武蔵が「そうか、小夜子が守ってくれるか。そいつは、心強いぞ」と、相づちを打つ。
そんな他愛もない会話が、小夜子の気持ちを高ぶらせた。

 閑静な住宅街を過ぎると、大通りに出る。
一気に人出が増えて、武蔵が眉間にしわを寄せた。
フェルト製の中折れ帽を深くかぶり直すと、視線を落としながら歩く。
きっちりとしたスーツ姿の武蔵は、痩せ型の長身で見栄えが良い。
小太りな正三とは対極の二枚目だ。
正三との逢瀬では小夜子に視線が集まったが、今は武蔵が主役だ。
行き交う女性たちの視線が武蔵に集まり、そして小夜子に対して、こんな小娘がと、敵意にも似た視線が飛んでくる。

 電車内はまばらな乗客ではあったが、やはりのことに武蔵の挙動は敬遠された。
しかし武蔵は、まったく意に介さない。小夜子の方に、少しの後悔が生まれ始めた。
“やっぱり、腕、組むんじゃなかった。でも、今さら外すのは癪だし”。
小夜子の腕に力が入る。と、どうしたことか武蔵が小夜子から離れてしまった。
つば広の帽子姿に方を大きく出したドレス姿の女性に声をかけている。
ピッタリと身体を寄せ合って、談笑している。一人残された小夜子は、必死に武蔵を呼ぶが声が出ない。
武蔵の元に駆け寄ろうとするが、小夜子の行方を遮るように女性たちが寄ってきた。
見覚えのある顔がずらりと並んでいる。
典江に珠子、英子と陽子に花子、そしてその先の武蔵と親しげに話に興じているのは、梅子だった。
「そ、そんな……」。
武蔵に見初められた、あのキャバレーの女給たちだった。

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