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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百二十七) 

2021年08月26日 外部ブログ記事
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「ここかあ? いや、居ないぞ。それじゃあ、この中か? 居ない。
おかしいぞ、おかしいぞお。匂いがするのに、見つからんぞお」
 布団の中で、小夜子は笑いを噛み殺していた。部屋をうろつく音がするが、中々ベッドに近付いては来ない。
「おかしいぞお、おかしいぞお。逃げられたか、またしても」

「ククク……」
 思わず、声を上げてしまった。
「おっと、声がしたぞ。どこだ、どこからだあ! クンクン、クンクン」
 小夜子は、わくわくしながら武蔵を待った。突然、小夜子の太ももに武蔵の手が触れた。

「キャッ!」
 小さな悲鳴を上げた途端に、武蔵が布団の中に潜り込んできた。
ベッドから逃げ出そうとする小夜子を、武蔵はしっかりと抱きとめた。
「見つけたぞお、やっと捕まえたぞお! さあ、どこから食べるかなあ。この腕か、それとも太ももかあ……」

 一瞬間、小夜子は声を失った。背筋に電流が走り、頭や手足に向かって広がった。
“なに、なに、、、なんなの、これって!”。
一気に世界が変わった。アンデルセンの世界にどっぷりと浸っていた小夜子が、うっかり踏み入れた世界は、金瓶梅の世界だった。
エロスの世界だった。武蔵が意図したわけではなく、小夜子が仕組んだわけではない。
かくれんぼの筈だったのだ。武蔵も童心に帰っての、遊びのつもりだったのだ。

 一瞬間、小夜子の体は硬直した。心音だけが、早鐘のように鳴り響いていた。
“ど、どうなったの、、、どうして、どうして!”。
武蔵の腕の中にすっぽりと収まっている小夜子に、南国の熱い風が吹いてきた。
夕陽が水平線に隠れていく。はるかな海原に沈んでいく。
燃えるような赤が海原に映り込んでいく。
そして小夜子の身体もその中に入り込んでいく。

「さよこ」
 その言葉と共に、唇を重ねられた。正三との接吻はレモンであり、武蔵とのそれはさながらマンゴーだった。 
「だめ! これ以上は、だめ、だめなの」
 涙声の小夜子に、これ以上の無理強いはまずいと考えた。
「いかんいかん、遊びが過ぎたな。しかし、美味しい接吻だった。ご馳走だ、ご馳走だあ!」 
 武蔵が階段を下りる音がする。「ご馳走だ、ご馳走だあ」と何度も繰り返しながら下りていく。
悪童たちが夕焼けに向かって家路に向かう折りに、「はらへったあ、飯くわせえ!」と怒鳴りながら歩く景色が、小夜子の頭の中にはっきりと映り込んでいた。

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