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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百二十八) 

2021年08月31日 外部ブログ記事
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 翌朝、台所から小夜子の明るく弾んだ声が聞こえてきた。ベッドの中でまどろむ武蔵の耳に、心地よい。
「いやあねえ、三河屋さんったら。何もないわよ、なにも。
声が弾んでるですって? そりゃ、体調がいいからよ。
何か始めたかって? ふふふ……、ひ、み、つ。
なーんてね。今ね、着物を新調してるのよ。
それを着てね、パーティに出席するの。アメリカ将校さんのお宅でね。
うーん、会食みたいなものかなあ。女優さんみたいでしょうねって、ふふふ、そんなこと。
口がうまいのね、三河屋さんは。だめよ、これ以上は要らないわ。
じゃ、お願いね」

 大きく伸びをして時計を見やると、七時を回っている。
「おっと、こりゃいかん。寝坊してしまった」
 慌てて飛び起きると、「おおい、小夜子ー!」と、呼んだ。
「まずい、まずいぞ。社長の俺が遅刻なんて、示しがつかん。小夜子ー!」。
何の返事もないまま、どかどかと階段を下りた。
「どうしたんだ、小夜子」

 快活にしていた小夜子が、椅子に座ったまま無言でいる。
“どうしょう、どうしょう、起きてきちゃった。
あ、あ、何にも出してない”。
恥ずかしさから、まともに顔を見られない。不機嫌そうな顔でなければ、体裁が悪い。
「小夜子、すまん。遅刻しそうだ。飯は、今朝はいい」

 武蔵は、小夜子の不機嫌さにまるで気付かない。
「そう。あたしのご飯は食べられないの、いいですよ。
どこかで、おいしいものをお食べくださいな」
“良かった、助かったわ。一緒にご飯は、今朝はちょっと”
「分かった、分かった。帰ってから聞くよ」

 バタバタと出かけた武蔵だったが、玄関先で小夜子を呼ぶ。
何ごとかと慌てて駆け付けると、「小夜子、お出かけのおまじないをくれ」と、言いだした。
キョトンとする小夜子に、
「ほら、この間観た映画でやってたろうが。ほっぺに、チュッだよ」と、ほほを向ける。
ためらう小夜子に、「ホラホラ!」と小夜子の口元に頬を突き出して、急かす。
勢いに押され、軽く武蔵の頬に唇を触れた。

“武蔵ったら、何をさせるのよ”と、顔を赤くする小夜子だ。
しかしこの些細なことで、小夜子の気持ちがいっきに明るくなった。
♪ふんふん、ふんふん♪
 流行歌を口ずさみながら、いそいそと家事に勤しむ小夜子がいた。
“今日はどうしょっかな? 英語学校、休もうかな? 
最近お掃除、手抜きしちゃってるものね。
お千勢さんが居なくなってから汚くなったなんて言われたら、いやだし”

 それにしても不思議なもので、家事が苦手な筈の小夜子が、今は嬉々として勤しんでいる。
掃除、洗濯は勿論のこと、いつ帰るとも分からぬ武蔵の為に夕食を用意していた。

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