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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百二十四) 

2021年08月19日 外部ブログ記事
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「そうか、そうか。小夜子が料理を作ってくれるのか。それは、楽しみだ。
そういうことなら、千勢は辞めさせよう。そうか、小夜子が作ってくれるのか、そいつは楽しみだ」
 相好を崩して、大きく頷く武蔵だ。
“一時のことかもしれんが、ま、いいさ。飽きたら、また雇えばいいことだ”。
小夜子の気まぐれに付き合うことに慣れてきた武蔵で、子猫のじゃれる様に見えている。
一分でも一秒でも早く帰宅したがる武蔵に「少しは会社のことにも気を配ってくださいな」と、五平が苦言を呈するほどだ。
取引先の接待に関しても五平に任せっきりとなり、果ては服部たち社員にまで任せ始めた。
「将来の幹部候補生だぞ、少しは任せても良いだろう」と言い訳をする。

「いいかしら? 千勢さん、困らないかしら?」
「大丈夫、大丈夫。そんなことは、小夜子が心配しなくていい。
ひと月分余分に渡してやるから。家政婦紹介所に頼んで次も用意してやるから。
小夜子の手料理をなあ、食べられるのか。そうかそうか」

 小夜子が来た折のことは、今でも鮮明に武蔵の脳裏に残っている。
連絡なしの、突然のことだった。自宅に人が来るなど、滅多にない。
コンコンと、格子門戸てはなく玄関のガラス戸を遠慮がちに叩く音がする。
三度目辺りに気付いた武蔵は、読みふけっていた新聞を座敷机に置くと、気だるそうに立ち上がった。

「はいはい、分かったよ。どなたですか」。
どかどかと廊下を、足音も大きく歩くと、ガラス戸の向こうに華奢なシルエットが見えた。
“お手伝いの千勢か?”。この日は月に一度の、お手伝いである千勢の休みの日だ。
何か急用かと「どうしたんだ、千勢!」と怒鳴りながら、錠を外した。
所々剥げ掛かったベージュ色のトランク一つで、小夜子が居た。
初めて見る武蔵の怒りの形相にたじろぐ小夜子が居た。

「あ、あのお、、小夜子です、、」。消え入るような声で、体を縮こませて、ペコリと頭を下げた。
“間違えちゃったかしら、やっぱりお酒の席でのことだったの?”。
不安の気持ちが小夜子の心いっぱいに膨らみ、見る見るうちに大粒の涙が溢れ始めた。
「小夜子じゃないか。いやあ、良く来たねえ。悪かった、悪かったよ、大きな声なんか出して。
俺が悪かった、悪かった。さっ、入りなさい。
そうか、そうか、よく来たなあ。よく来てくれた」
 満面に笑みを湛えて、小夜子を手招きした。

「ひくっ、ひくっ、怖い、社長さん」
「そうだな、俺が悪かったな。ごめんな、ごめんな」と小夜子の肩を抱きながら、中に引き入れた。
「そうか、そうか。やっと決心してくれたか。待ってたんだぞ、小夜子。
これからは家族だ。勉学に専念しろ。家事のことなんか、お手伝いの千勢に任せておけばいいさ。
小夜子と俺は、今日から家族だからな」
 小夜子の肩を軽く叩きながら、何度も‘家族’を強調した。

「で、でも。そこまで甘えるわけには、、、」
 落ち着きを取り戻した小夜子は、座布団から降りた。
「ご迷惑を顧みず、お世話になることにしました。よろしくお願いします」と、頭を畳に擦り付けるようにお辞儀をした。
「おい、おい。そんな他人行儀なことは言うな」
 小夜子の思いも寄らぬ作法に、戸惑いを覚えた武蔵だった。

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