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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百二十三) 

2021年08月18日 外部ブログ記事
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「お千勢さんに辞めて欲しいんです。家の中のこと、あたしがやりたいんです」
 意を決して、しっかりと武蔵の目を見据えた。しかし、すぐに視線を落としてしまった。
「小夜子は、千勢が嫌いか。分かった、分かった。誰か、他のお手伝いを探そう」

 小夜子を抱き寄せると、頭をポンポンと軽く叩いた。小夜子の意図することに反した武蔵の言葉に、小夜子は慌ててしまった。
「違うの、そうじゃないの。お千勢さん云々じゃないの。あたしが、お料理やらお掃除やら、お洗濯をしたいの」
 さらに顔を真っ赤にして、言う。こんな言葉を口にするとは、考えられない小夜子だった。
お姫さま然の暮らしをさせてくれるかもと期待する思いがあった小夜子だった。

「手伝いの娘が居るから好きなことをして時間を潰せばいい」。
「しっかりと英会話の勉強をしろ」。
そんな言葉をかけられている。
そしてその言葉通りに家事の全てを任せて、小夜子は毎日を英会話の勉強に費やした。
しかしひと月を過ぎた頃から、少しずつ小夜子の気持ちの中に違和感が生じ始めた。

 アナスターシアと旅をしながら、アナスターシアの笑顔を得るべく、アナスターシアの身の回りの世話をする。
アナスターシアが安らげる場を、小夜子が創り上げる。
そのための英会話の勉強だったはずだ。
その思いは今も変わらない。

アナスターシアから届く手紙を、辞書を引き引き訳して読む時間は至高の時だ。
溢れるほどの愛の詰まった手紙は、何ものにも代えがたい。
すぐにでもアナスターシアの元へと飛んでいきたいと願う小夜子だが、異国の地での生活において会話の大切さを痛感している。
通訳を介しての、たった一日のことだったが、如何に味気ないものか、如何に痛痒なことか、身にしみている。

 しかし日が変わると、そしてまた武蔵の姿を目にすると、もう一人の小夜子が現れる。
(人形に恋する少女は、幼い少女。恋を愛と勘違いする、童女。新しい女性になるんじゃなかったの)。
痛烈なしっぺ返しを受けたような感覚に襲われる。
(足長おじさんなの)。そう強弁してみるが、納得する小夜子はいない。
 
「猫が落としたの」。
棚の上から落ちた花瓶を指さしながら、「自分じゃない、猫が悪いの」と母親に告げる子ども。
母親の目を正面から見ることが出来ずに視線を落として告げる子ども。
柔らかい視線に包まれても、(分かっています、あなたでしょ)と叱責されている思いが伝わってくる。

嘘を吐いてしまったという自責の念から顔を上げることができない。
夢想の世界と現実の世界との狭間に追い込まれている感覚が、どうしても拭えない。
しかしアナスターシアとの暮らしは、捨て去ることの出来ない小夜子の強い願望だ。

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