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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百十六) 

2021年07月01日 外部ブログ記事
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 困惑顔で、加藤は小夜子に翻意を促した。
「そうですよ、小夜子さん。宅の言う通りです、ご実家にお帰りになると言うのならまだしも。
でもまあ、決心は固いみたいですね」
 奥方は口でこそ小夜子を引き留めるが、その目の中には“厄介払いが出来る”と、安堵の色が見える。

「ご心配をおかけしまして、申し訳ありません。
でも一人暮らしと言いましても、会社の寮に入りますので。
学校に通いながら時間の空いた時に、事務のお手伝いをさせてもらうことになっております。
卒業後は、その会社で通訳のお仕事をさせて頂けることになりました」

 凛とした小夜子の態度に、加藤は驚いた。
上京し立てのおどおどとした態度が微塵もない。
それどころか、自信に満ちた表情を見せている。
“何があった、と言うのだ。まさかとは思うが、正三君との間に何か約束事でもあるのか?”

 加藤は小夜子の顔をまじまじと見つめながら、「その、なんだ。正三君とは、連絡を取り合っているのかね?」と、問い質した。
「いえ。正三さんには、まだお話をしていません。
それでお願いなのですが、もし手紙が届きましたら、この会社宛に転送して頂きたいのです」と、武蔵に渡された名刺を、加藤の前に差し出した。
「なになに。雑貨品卸業 株式会社富士商会 代表取締役 御手洗武蔵 通訳とか言ったね? 貿易関係の仕事でもなさそうだが、どういうことかね?」

 舐めるように名刺を見ながら、加藤は怪訝そうな表情を見せた。
“キャバレーの客だろうが、まさかパトロンではないだろうな”。
“正三ではなく、この御手洗某にそそのかされたのか”。
加藤の頭の中を、そんな思いが駆け巡った。
“こんな年端も行かぬ小娘を蹂躙するつもりか!”。遂には怒りの思いが昂じ始めた。

「小夜子ちゃん。もう少し考えてみては、どうかね? 
その、なんだ。どうも胡散臭さをだね、おじさんは感じるんだがねえ」
 小夜子は加藤の声を遮るように、武蔵に教えられた通りに淀みなく答えた。
「GHQ相手のご商売をされています。
これからは、貿易品も手掛けられるとか、仰っています。
で、通訳が必要になるとかで。
後日に、社長がご挨拶に伺いたいと申しておりました」

「まあまあ、そうなの。GHQがお相手ならば、しっかりした会社なのね。
あなた、心配するような事じゃありませんわよ。それは、良かったわ」
 奥方の言葉によって、やっと小夜子は解放された。

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