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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百十五) 

2021年06月30日 外部ブログ記事
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 結局小夜子は、武蔵の元に身を寄せることにした。
悩みに悩んだ小夜子だったが、加藤家での居ずらさは増すばかりだった。
あの夜以来、奥方の咳払いが毎夜のように聞こえた。
小夜子の空耳かも知れないのだが、どんなに足音を忍ばせても聞こえてしまう。
そして咳払いの後には必ずと言っていいほどに、嘆息混じりの小声が聞こえてくる。
はっきりとは聞き取れないものの、小夜子への当てつけことばに決まっていると感じられるのだ。

 英会話の授業に支障を来し始めたことも、小夜子の心を決めさせる一因になった。
教室内での会話全てが英語となり、時として疎外感に苛まれてしまう。
簡単な挨拶程度は理解できるのだが、日常の事柄を語り合う学友の輪に入れなくなることが多くなってきた。
「いかがわしい場所で働いているんですって」。「女給でしょ、いやあねえ」。
「お酒の匂いをプンプンさせて」。「そのうちに教官に対して色目でも使うんじゃない」。
小夜子が挨拶のことばをかけても、誰も返事をしなくなってきた。
“これじゃ、だめだわ。何のために上京してきたのよ”。
そんな思いが、日々強くなった。

 不安がない訳ではなかった。武蔵のことばに嘘はないと思いつつも、いつ変心するやもしれぬと言う思いは消えなかった。
“その時は、その時よ。いっそのこと、処女を正三さんにあげればいいのよ”。
そんな思いが、頭を駆け巡った。
それにしても、あの手紙からもう、ひと月の余が経ってしまった。
以来、正三からの手紙は来ない。
“まさかとは思うけど、正三さんからの手紙、隠されているのでは”。そんな疑念が浮かんでくる。
“それとも。ご両親の反対で、正三さん、翻意してしまったのかしら。
いえ! そんなことは、決してないわ! そんな正三さんじゃない!”

 日曜の夜、小夜子は加藤夫妻と対峙した。
こんな事態を望んだわけではなかったが、武蔵の元に身を寄せる為には避けて通れぬことだった。
「短い間でしたが、本当にお世話になりました。改めて、お礼方々ご挨拶に伺わせていただきます」
 畳に頭を擦り付けて、小夜子はお礼のことばを述べた。
突然の小夜子の申し出に、加藤は驚くだけだった。
奥方は女の勘とでも言うのか、小夜子の微妙な変化に気付いてはいた。

しかしまさか加藤家を辞することになるとは、思いも及ばなかった。
加藤よりの援助を懇願してくるもの、と考えていた。
「考え直さないかね。都会での一人暮らしは、色々と問題が多い。
茂作さんだって、許さんだろうに。第一、生計は成り立つのかね。
茂作さんからの仕送りを期待しているのなら、それは無理だ」

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