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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 (珠恵の決断) 

2021年04月29日 外部ブログ記事
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 昭和5年の春に、名水館に降って湧いたような隠し子騒動が起きた。
女将の珠恵には子がなく「養子を」という話が出ていたのだが、突然に夫の栄三が「今年17歳になる息子がいる」と告白したのだ。

上へ下への大騒ぎの末に、親族一同の総意として、その息子を跡取りとして迎えることになった。
「京都で板前修業をしている」という栄三の説明が決定打となった。
親族会議の間終始無言を貫いていた珠恵が、その決定に異議を挟まず「申し訳ないことでした」と畳に頭をこすりつけた場面では、
女性たち全員が「あなただけが責めを負うことはない、栄三にも責任がある」とかばってくれた。

「済まないことです」。栄三もまた、珠恵にならって頭を下げた。
しかし場の雰囲気としては「良くやった」と栄三を褒める空気が多かった。
やはり養子を取ることに対する反発は大きかった。
よしんば親戚間より選び出したとしても、それはそれでまた一悶着が起きる恐れがある。
それが珠恵を躊躇させた。

そして珠恵としてもこれといった人物を当て込んではいなかったことで、異を唱えることはできなかった。
「嫁はわたしが決めさせて頂きます、名水館の次の女将になるのですから」。
このひと言がせめてもの珠恵の意地だった。
これにもまた誰も異を唱えず、栄三もまたおとなしく従った。

 以前に、二人に子どもが出来ないことを危惧した親戚筋から「離婚させて、珠恵を再婚させてはどうか」という話が出た。
しかし栄三を名水館に婿入りさせる条件として養子縁組をしていることから、すぐにその話は立ち消えとなった。
その栄三というのは、呉服屋の三男坊として生まれた。
見てくれだけの男ではあったが、変に旅館経営に口を出されるよりはと、珠恵も承知をした。

 しかし栄三にも意地がある。縁談が決まってから、父親の元で商いの心得を学んだ。
「何よりも勘定が大事だ」という教えに従い、急きょ帳付けの勉強を始めた。
これまで何かに熱中するということのなかった栄三だが、少しでも珠恵の力になれればという思いだった。

「細かいことは分からなくてもいい、全体が把握できればいいんだ」という父親のことばが、栄三に力を与えた。
意気揚々と珠恵に「名水館のお役に立ちたい」と、その旨を伝えたところ「旅館業務には一切口を出さないこと」という一札を入れさせられてしまった。

 いろいろの制約を課せられた事に対し、栄三の堪忍袋が切れた。
父親に対し憤然とした思いで「破談にしてくれ」と頼み込んだが、「実は……」と名水館から多額の支度金名目の援助金を受け取っていることから「このまま婿入りしてくれ」と懇願された。
「わたしは売られたのですか!」と詰め寄ったが、「すまない」と頭を下げる父親に対して、それ以上強く出ることもできずに承諾した。

 初夜の折にそのことを珠恵に問いただすと「わたしは知りませんでした」と、毅然とした態度で告げられた。
その態度から、知っていたのか……と絶望的な気持ちに襲われた。
「わたしは種馬なのかね」と力なく言う栄三に対し、珠恵がきっぱりと言った。
「あなたを夫として大事にします」。しかし具体的に何をどうするということばはなかった。
珠恵にしてもまだ若女将の立場であり、母親である大女将に逆らうことはできない。

結局の所、夫だと色々の場所では立ててはくれるものの、名水館内での立場は雑用係のごときものだった。
仲居たちの愚痴を聞いてやることが多くなり、その中の一人と恋仲になってしまった。
そしてその仲居との間に男子が産まれたのだ。

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