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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (九十九) 

2021年04月20日 外部ブログ記事
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 穏やかな波に反射する太陽光を眩しく感じながら、武蔵は光子の横顔をも眩しく感じた。
“いい女だ……”
 久しぶりに、心が騒ぐ武蔵だった。
あの梅子以来のことだ。もっとも梅子との間には、男女関係はない。
色気云々ではなく、人間として器の大きさを感じてのことだ。
しかし女将に対しては、女としての魅力も感じる。

「女にだらしなく見えますか?」
 思わず、武蔵の常套句を口にしてしまった。
“今日は色気抜きだ、ビジネスの話しをするんだ”。そう決めたはずだ。
でなければ脇の甘い交渉事となってしまう。
今までに女性相手のビジネス話は経験がない。
女性の同席があったとしても、あくまで補佐的存在であり、交渉相手は男性だけだった。

勝手が違うなと困惑気味になってはいる。
まさか旅館組合を相手にすることになるとは、想像もしていなかった。
三軒いや五軒も回れば、一軒ぐらいは話に乗る旅館が出るはずだと踏んでいた。
それが十軒を回ったというのに、ただの1軒も話に乗ってこない。
とこも判で押したように「間に合っています」と断られた。

 何が不味かったのか、身なりに関しては文句の付けようがないはずだ。
わざわざ銀座の老舗テーラーで誂えたスーツにした。
服に着られることを避けるためにと、三ヶ月の間その服だけであちこちを飛び回った。
まさかそれが裏目に出たとは、信じられぬ思いの武蔵だった。

真に女将の言うとおりによそ者に対する警戒心が強いだけの土地柄なのか、それとも復興の度合いを見誤ったのか。
その判断が付きかねる武蔵だった。
それだけにこれから行く旅館組合での交渉がキモなのだ。
女将はあくまで仲介約だ。
その女将に色目を使っているようでは足下を見られてしまう。
組合長、もしくは理事長を口説き落とさねばならない武蔵だけに、慎重の上にも慎重を記さねばと意気込む武蔵だった。

「俺は女にだらしないし、一目ぼれが激しい。
しかし女将、いや光子さんだけは別だ。心底、惚れました」
 口に出てしまっては後の祭りだ。
女将の色気に負けたと言っても過言ではない。
どうにも五平の言葉が耳から離れないでいる武蔵だった。

「社会的責任っていうのですか? 
世間さまってのは、意外に家庭持ちか否かってのを気にするもんです」。
あの社員旅行以来、女性に対する見方が変わってしまった。
将来の伴侶として、という視点が増えた。
また取引先からも「そろそろ身を固められては……」と探るような視線を感じることがある。
銀行からも「こんな女性がいますが……」と声がかかったりする。
どうやら五平の思惑通りに事が運び始めたようだ。
他人の敷いたレールの上を走るのは好きではない武蔵なのだが、どうにも今回は勝手が違う戸感じる武蔵だ。

「まあ、ほんとうに? それは光栄ですわ。
わたくしも、武蔵さんに惚れこんでおります。
旅館の女将でなければ、東京まで押し掛けて行きたいほどですわ」
 さすがに女将である、サラリと受け流した。
これでは武蔵としても、矛を収めざるを得ない。
「まいった、まいったよ、女将。口説き落とせなかった女は、おか、いや光子さん、あんただけです」
 快活に笑う武蔵に、女将は拗ねた表情を見せつつ
「あらあら、もうお降りになるんですか? 
もうひと押しあれば、わたくしの方がよろめきましたのに」と、武蔵の腕を軽く抓った。

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