メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (九十八) 

2021年04月15日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 女将の運転は実にスムーズな運転で、浜辺を見やるゆとりが武蔵にあった。
♪♪熱海の海岸 散歩する 貫一お宮の 二人連れ……♪♪
 武蔵にしては珍しく、鼻歌を口にした。
「社長さま、ご機嫌でございますね。ご商談が、上手くいきましたのですか?」
「いやいや、とんでもない。見込み違いだったかも、しれんのです。
ここの旅館群に、陶器の売り込みを図ってみようかと思ったんですが。
どうにも駄目みたいで。ああ、今の鼻歌のことですか? 
女将との逢瀬を楽しんでるんです」
「あらまあ、それは光栄ですわ。こんなおばさんの、わたし如きに。
で? 陶器の売り込みとおっしゃいましたが、どちらにお声をかけられましたのでしょう?」
 ルームミラー越しの会話に、不満を感じた武蔵は
「どうですか、女将。時間があるようなら、少し海岸べりを歩きませんか」と、誘いをかけた。

「これが、あのお宮の松で、ございますの。この下で、貫一さんに足蹴にされたのでございますよ」
 道路の中央にあるその松は、もともとは羽衣の松と称されていた。
尾崎紅葉作の金色夜叉によって全国的に知られることになり、そしてその句碑が建てられたことからいつしかお宮の松と呼ばれるようになりましたと、女将が説明した。
「明治の御代のお話でございます。男社会の中でのお話ですので、女が立身出世することが面白くなかったのでございましょう」
と、意外な感想を口にする女将に対し「
面白い意見ですな、それは。女の立身出世ですか?」と、武蔵の興を引いた。
「あらまあ、これはとんだことを口にしてしまいました。
嫁ぐ先が女の勲章というのもどうかと思われましょうけれども、請われて嫁ぐのでございますから。
それに、男が大成するかどうかは女の支えが……」と、それ以上は口をつぐんだ。

「ところで女将、社長という言葉は止めてくれませんか。
武蔵で、いいてですよ。どうにも、堅苦しくて。
今はお客ではなく、一人の男として女将と接していたいんですが」
と、話しをすり替えた。女将の言わんとすることにも一理あると感じた武蔵だ。
「そうですわね、わたくしもそう思っておりました。
それでは、わたくしのことも、女将ではなく光子とお呼びくださいな。
光り輝く女に育て! ということで、親が付けてくれました」
「ほう、光り輝くねえ。ピッタリだ、女将に。それじゃ、光子さんと呼びますよ」

「ところで社、いえ、武蔵さんはどちらにご商談に行かれました? 
もしも個々の旅館にお話しされたのでしたら、失礼ですが間違いでございますよ。
この熱海という土地ではハッタリは利きません、よそ者に対しては冷たい土地柄でございます。
組合の方にお出でにならなければ、皆、警戒いたしますです」
「そうですか、やはり、飛込みでは警戒されますか。
しかしハッタリとは、初めて言われました。
そうですか。この服装が、かえって警戒心を抱かせましたか」

「よろしければ、わたくしの方から組合に声をかけさせていただきますが」
「そりゃ、助かる。しかし良いんですか? 一見の客だというのに、信用しても」
「ほほほ。武蔵さんのお人柄は、わたくし、しっかりと見抜いておりますわ。
でなければ、わたくしがお迎えには参りません。
私生活は別と致しまして、事ご商売にかけましては、真摯なお方と推察しております」
「そいつはお見逸れした。
そうだな、客商売の光子さんだ。眼力は、確かなものだろう。
しかし、私生活は別とは、痛いところを衝かれました」

>>元の記事・続きはこちら(外部のサイトに移動します)





この記事はナビトモではコメントを受け付けておりません

PR





掲載されている画像

    もっと見る

上部へ