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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (九十六) 

2021年04月13日 外部ブログ記事
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月が変わって、いよいよオンリーとしての生活が始まる。
三保子の表情に翳りが出始めたことに気付いた武蔵は、五平にその旨を告げた。
「五平、困ったぞ。
どうも、勘違いをしたらしい。いや、勘違いというより、誤算と言うべきかな? 
俺の愛人になりたいと言うんだ。どうしたものかな、これは」

「そうですか。少し、遊ばせすぎましたかな。
分かりました。後は、あたしが受け持ちます。
なに、大丈夫です。今更、戻れませんから。
うまく引導を渡します」
 五平がどのように因果を含めたのか、武蔵には知る由もなかったが、予定通りに三保子はオンリー生活に入った。
二度程、武蔵の元に電話が入ったが、幸か不幸か武蔵は出張に出ていた。

取扱商品が増えたこともあり、繁忙さは以前にも増して激しいものになっていた。
熱海での徳利事件をきっかけに高級陶器に興味を覚えた武蔵は、伊万里・有田・萩そして、瀬戸を回った。
五平は時期尚早だと反対し、武蔵自身にも確たる勝算があったわけではない。
しかし各地の窯元から、根強い需要があると聞かされた。
料亭や旅館向けの出荷が、徐々にではあるが増加しているらしいのだ。
武蔵は、熱海での慰安旅行時のことを思い浮かべた。
“あの女将も、客足が少しずつではあるが戻り始めた、と言っていたな。
よし、熱海に行ってみるか”。

出張から帰ったばかりだというのに、五平に対してその旨を告げた。
「いくら何でもこう立て続けでは」と苦言を呈する五平に対し
「善は急げだよ」「まあ今日は早退する。明日は始発で出るから」と告げて、そそくさと会社を後にした。
「やれやれ。出勤したと思ったら、もう退社か。
まったく落ち着きがないというか、動き回ることの好きな社長だな」
 こぼす五平に対して
「専務がおられるからこそ、安心して飛び回ってらっしゃるんですよ」
と、事務員から声がかかった。

 国道沿いに立ち並ぶ旅館群の中から名の通った旅館に当たりを付けて、飛び込みの営業に入った。
この地区には武蔵にとって初めての地であり、また人脈とてない。
当たって砕けろだとばかりに、帳場に座っている番頭やら女将に声をかけた。
しかしどこも判で押したように、宿泊ではなく売り込みだと分かると、木で鼻をくくったような態度を見せた。
親身に話を聞こうなどとする所は一軒とてなかった。

銀座の老舗テーラーで誂えたスーツ姿で行けば、それなりの対応をするはずともくろんでいた武蔵にとってはまったくの誤算だった。
慇懃な態度に終始し、決して「ここではなんですから」と上がらせもしない。
飛び込みの英儀容において簡単に相手が話に乗ってくることは、確かに今までにおいても殆どない。
しかしこれほどの冷淡な態度を取られることは、武蔵にはそれが何ゆえなのかどうしても分からなかった。
十軒目の旅館を出た折には、さすがの武蔵も疲労困憊の極に達した。

“うーん。やはり、未だ時期尚早か。無駄足だったか”。
重い気持ちになったものの、“あの女将に会ってみるか、嘘を吐いたとも思えんし”と、思い直した。
 角のタバコ屋に設置してあった公衆電話を利用した。
「はい、明水館でございます」
 女将の溌剌とした声が、武蔵の耳に心地よく響いた。
「や、どうも。昨年の秋にお世話になった、富士商会の御手洗ですが。覚えていてくれ、、、」
「まあ、社長さまですか? その節は、ありがとうございました。
お礼に伺わねばと思いつつも、中々に時間が取れずにおり、申し訳ありませんでした」
と、武蔵の言葉を遮った。
「いや、そんなことは。実は今、熱海に来ているんです。
でね、今夜の宿をお世話になろうかと思いましてね」
“覚えていてくれたか。満更、社交辞令でもなかったわけか。
いやこんなことは、女将として当たり前のことか?”

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