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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (七十六) 

2021年02月24日 外部ブログ記事
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 富士商会初の慰安旅行は、土・日にかけての一泊旅行として発表された。
思いもかけぬ朗報に、全員が感嘆の声を上げた。
更には、鉄道の三等ではなく二等客車を利用するという声に、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなり、その日一日笑い声が絶えなかった。

「死ぬまでに一度は、乗りたいと思ってたんだよ。よおし、その日までは、なにがあっても生きぬくぞ」
「何だ、そりや。その後なら、死んでもいいってことか?」
「お洋服、新調しなくちゃね。なにせ、一等車だもの」
「そうね、そうよね。奮発して、デパートで買わなくちゃ」
「熱海だなんて、嬉しいわ。貫一・お宮の舞台なのよね」
「温泉に入るの、楽しみ。然も、熱海一の旅館なんでしよ?」
 あちこちで話が盛り上がり、「仕事しろ、仕事!」と、五平の怒鳴り声が響くこととなった。

 当日は午前中で仕事を切り上げ、それぞれに新調した服に着替えての出発となった。
ゆったりとした座席に陣取った一行は、他の乗客達のひんしゅくを買う程にはしゃぎ回った。
「社長。やっぱり列車じゃなくて、バスの方が良かったんじゃないですか」
「なんだよ、バスって。あんな狭苦しい乗り物なんかで、3時間、いやもっとか、揺られるなんて、できねえ相談だよ。
第一、俺が人混みが大っ嫌いだってことは、五平も知ってるだろうが。俺はごめんだぜ」

 吐き捨てるように言う武蔵に対し
「あいつらがこんなに大騒ぎするとは思ってもいませんでした。
バスなら騒いでも社員たちだけですし。
社長だけ汽車でという手もありましたしね。
狭苦しいということなら、二手に分けて出るということもできましたよ。
貸し切りという方法があるらしいんです。真剣に考えりゃ良かったですよ」

 眉をひそめながら愚痴る五平に対し、武蔵は
「今日は、大目にみてやれ。乗客には、俺から謝るさ。
次の停車駅で、何か買ってきてくれ。お客さんらにそれを配って、辛抱してもらうさ」
と、取り合わなかった。

 熱海に到着した頃には、そろそろ日も暮れ始めていた。
駅舎から出た一行を出迎えたのは、[富士商会御一行様]という幟だった。
番頭らしき初老の男と二人の仲居が、満面に笑みを浮かべていた。
総勢五十人程の大所帯ということもあり、路線バスを借り切っての迎えだった。
改札から出てくる社員中には、赤い顔をした者やら大きく欠伸をする者やらで、統制が利かない。
五平が声を張り上げて、やっとバスへの列を作った。

「長旅、お疲れ様でございました。さあさあ、どうぞ。
なあに、ほんの五分程で着きますです」と、揉み手をしながら誘導した。
「五平。俺は後で合流するから。ちょっと寄りたいところがあるんだ」。
そっと耳打ちをする武蔵に「こんな所にも女を作ったんですかい? 社長も好きですねえ」と、小声で応えた。
武蔵は、苦笑いを見せながら「そんなんじゃねえよ」と手を振りながらその場を離れた。

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