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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (七十五) 

2021年02月23日 外部ブログ記事
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 その年の六月、朝鮮動乱勃発。そして朝鮮戦争特需で、日本経済は回復軌道に乗った。
 しかしそれは、あくまで見かけ上のことではあった。
一部の産業――特に繊維産業は、その特需の恩恵に預かった。
武蔵が予測したとおりに、膨大な土嚢に軍服、そして天幕を受注したからだ。

武蔵は在庫の生糸類を一気に吐き出した。
GHQによる対中貿易禁止令によって安価な物資が途絶えて、アメリカ本土からからの高値の物資を買わざるを得なくなってしまった。
「アメリカから資源を買い、アメリカのために生産し、アメリカの言い値で売る」。
そんな状況に陥ってしまった。
必然市民生活には恩恵が届かずにいたが、富士商会は多額の利益を得ることになった。

「うちを一枚かませてくれなかったのは……」。
取引先の妬みは凄まじく、GHQから情報を得ていたのではないかと疑われて忌み嫌われた。
「社長の大英断ですから」と、必死に社員全員で取引先を飛び回って説得した。
日頃の武蔵を知る者や個々の社員たちの信用もあって、殆どの取引先は納得をしてくれた。
納得でき業者もいるにはいたが、飛ぶ鳥を落とす勢いの富士商会にたてつくことは得策でないと、いつしか矛を収めた。

 熱い夏の盛りがやっと終わり、朝夕にはしのぎ易い風が吹くようになった。
青息吐息だった富士商会も、朝鮮特需によって飛躍的に業績を伸ばした。
大量に買い込んでいたあらゆる物が、あっという間に捌けたのである。
病み上がりの武蔵も、あちこちの取引先からの要請で、日本中を飛び回った。
「疲れた」と言う言葉を禁句にしていた武蔵だが、この時ばかりは頻繁にこぼした。
心配げに見守る五平だったが、その五平自身もGHQの将校達との接遇に追われた。
情報収集が最優先すべき五平の仕事であり、それが富士商会隆盛の源なのだ。

「五平よ。慰安旅行にでも、行くか? 正直、疲れた。
熱海辺りにでも、繰り出すか。女連れで、銀座もないだろう。
同じ金をかけるなら、一泊でドンちゃん騒ぎでもしよう」
 思いもかけぬ、武蔵の言葉だった。むろん、五平に否と言う言葉は浮かばなかった。
「いいですなあ、社長。社員達にも、一時は辛い思いをさせましたし。
それにこの夏は、休日返上で頑張ってもくれました。パァー! っと行きますか」

「よし、決まった! そうだな、晦日月に入ったら臨時休業するか。
どこか、予約しておいてくれ。金に糸目は付けるなよ。
最上級の旅館で、最高のサービスをさせろ。
それから、五平。俺とお前の二人きりの時は、社長はやめろ。
軍隊時代からの付き合いだ。武さんで、いいぞ」

「いやいや、それはまずいでしょう。
けじめは、付けなくちゃいけません。
あたしみたいな半端者が、こんないい思いをさせて貰ってるんだ。
感謝してますよ、ホントに」
「それは、俺にしても同じさ。
五平のお陰で、GHQとの繋がりもあるんだからな。
これからも、二人三脚でやって行こうや」

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