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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (七十七) 

2021年02月25日 外部ブログ記事
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 武蔵には本館ではなく、少し庭先を歩いた離れの間が用意されていた。
庵風のつくりで、趣のある平屋の建物だった。
灌木の間を歩いて、石灯籠を見やりながらの石畳の道を歩く。
「下駄でお渡りください」と、白木の下駄を宿に用意された。
素足にはひんやりとして冷たくはあったが、それがまた風情ある趣を醸し出していた。

 引き戸を開けると半坪ほどの上がり口があり、まず四畳半の部屋がある。
襖を開けると十二畳の部屋につながっていた。
正面の床の間に掛け軸があり、不二越えの龍という掛け軸が目に入った。
庭に面する部屋にしてくれという武蔵の希望通りに、ガラス戸の先には四季に合わせた花が見られるようにと数種類が植えられている。
むろん樹木も植えてあるが、壮観だったのはその先に浜辺が見えることだった。
 
「本日はありがとうございます。後ほど女将がご挨拶に伺わせて頂きますが、先ずはお茶を」と、武蔵たちを先導してきた番頭が仲居を呼んだ。
「番頭さん。そこの掛け軸は、不二越えの龍、ですか。葛飾北斎でしたっけ?」
「これは、これは。よくご存じで。葛飾北斎作ということですが、真贋のほどは、ご勘弁を。
先代が骨董屋から買いあさったもののひとつでございますが、女将がその中から選びました」
 じっと見つめる武蔵に番頭が説明した。

武蔵に書画の趣味があったとは思えぬ五平が「社長。これから集めますか、少し」と探りを入れた。
熱海到着時に単独行動の意味が分からぬ五平だったが、物見遊山的行動をとる武蔵ではないことは分かっている。
なにかしら商売上の動きだろうと考えているときの、この武蔵の言葉に反応を確かめてみた。
「いや、俺には似合わねえよ。
この間、取引先の社長室でに水墨画がかかっていてな。そいつが北斎画が好きなんだと。
そのときに、画集を取り出してきて長々と講釈をたれやがって。
あの会社、長くねえな。そんな余裕なんかないはずだぜ。
早晩、……ということだな」と、口に指を当てた。

 番頭と中井が退室した後に、
「社長、申し訳ありませんでした。皆には、きつく叱っておきますので」と、五平が頭を下げた。
足を崩せとばかりに手を振りながら「ああ、汽車のことか。なに、構わんさ。
それだけ楽しみにしていた、ということじゃないか。叱ることは、ないさ。
宴会が盛り上がらなくなるぞ。そんなことより、大丈夫だろうなあ。
ドンちゃん騒ぎを、させてやれよ」と、応えた。

「はい、それはもう。前金を、たっぷりと渡してありますから。
仲居への心付も、奮発しておきましたし」
「そうか、それでいい。で? 芸者は、何人呼んだんだ」
「はい。『熱海中の芸者全員を呼べ』と、言ってあります」
「うん、それでいい。それからな、若い者たちは外に繰り出すだろうから、番頭にその旨言っておけよ。
おかしな事に巻き込まれないよう、目を配ってやれよ。
なんだったら、五平も行くか? 一緒に」
「いやいや、社長。それじゃ、若い者が可哀相です。
社長と、とことん飲み明かしますよ」

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