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敏洋’s 昭和の恋物語り
水たまりの中の青空 〜第一部〜 (七十二)
2021年02月16日
テーマ:テーマ無し
いよいよ上京! という前日になっても、小夜子との連絡が取れなかった。
既に小夜子が上京してから、二ヶ月近くが経ってしまった。
「だめだ、幸恵。ぼくは見限られてしまったようだ。
実はね、小夜子さんから誘いは受けたんだ。一緒に行きましょうって。
でもぼくは、残ってしまった。情けない男だ。
逓信省への入省がダメになってしまいます。
そうなっては男として情けないことになってしまう、とね」
正三の落ち込みように接した幸恵は、意を決して告げた。
「正三兄さん、今まで黙っててごめんなさい。
実はね、小夜子さんからお手紙が何通か届いているの。
お父さんとお母さんがね、隠し持ってるの。
いえ、破り捨ててしまわれてるかもしれない。
でもね、わたし、住所を覚えてるわ」
いつ切り出すか迷い続けた幸恵だった。
すぐに教えても良かったのだが、ためらいがあった。
小夜子を知る前の正三ならば「仕方ないよ、お父様の考えに従うしかない」と、早々に白旗を揚げたことだろう。
しかし現在の正三は違う。しっかりと父親と対決しうるだけの心根が出来ている。
もしも口論となってもしっかりと対することが出来るはずだと思える。
もう簡単に父親の威厳に押さえ込まれることはないはずだ。
しかしそれはとりもなおさず、佐伯家の崩壊という最悪の状態を招きかねないのだ。
江戸時代から連綿と続く、由緒ある(と、幸恵は考えている)佐伯家が途絶えることになるかもしれないのだ。
「勘当だ!」。そのひと言に対しても、今の正三ならば屈することはないだろうと考えてしまう。
そうなれば、幸恵が婿養子を取らざるを得ない。
“それはそれで仕方がないわ”と考えもするが、その一方でここまで男系が続いているのだという意識が拭えない。
小夜子の「新しい女として生きるべきだ」という思いを受け継いだはずなのに、その呪縛からは逃げられていない。
理論としては、思考の上では、理解しているし賛同もしている。
しかし、何かが幸恵を縛り付けている。
正三と父親との口論は聞きたくない、そういう思いもありはする。
母親の嘆き悲しむ姿を見たくないと言う思いもある――そうだった、幸恵の中に一抹の不安な思いが湧いた。
正三の母親に対する思慕の念だ。その強さは尋常ではない、いつもそう感じていた。
幼い頃から跡取りとしての自覚を求め続けられて、同年齢の幼子のような自由気ままな生活態度を厳しく制限されてきた正三を、毎晩のように慰めたのは母親なのだ。
凜とした姿勢でもって事に対処しつつも、常に正三の味方でいてくれた母親なのだ。
何かと言えば「折檻だ!」と怒鳴り散らす父親に対して、畳に頭をこすりつけてかばってくれた。
もしもそんな母親が正三に対して、同じように頭を畳にこすりつけるようなことをしたら……。
それでも正三が強く己を主張して、小夜子との生活を選んでくれるかどうか、自信が持てなかった。
「佐伯家を継ぐものとしての自覚を持て!」
「国家百年の大計と市井の女ごとき一人と、とじちらが大切だ!」
と迫られた折りの正三が、どちらを選ぶか、いや選ばせられるか、幸恵には判断が付かない。
万が一にも家制度の重みに負けてしまったら……、幸恵自身の将来にも関わることだ。
正三の苦しみを知りつつも、心を鬼にして隠し通した。
しかしもう時間がない。今告げなければ、正三は小夜子に会うことは出来ないだろう。
そしてまた、小夜子をも裏切ることになる。
そして今、ことの真相を告げた。
「そうか! 小夜子さん、手紙をくれてたのか。
だけど、返事を出していないんじゃ、怒ってるだろうな。
もう今更、逢ってくれないかもな」
パッと顔を輝かせつつも、暗澹たる気持ちになった。
「大丈夫よ、正三兄さん。キチンと訳を話せば、分かっていただけるわ」
そんな幸恵の言葉にも、正三の心は晴れなかった。
両親が反対していると聞いた折りの小夜子の反応が、正三は恐かった。
“障害が多ければ多いほど、燃え上がるものさ“。
”両親を説得できないなんて、最低! と言われるかも”。
相反する思いが、正三の頭を駆け巡った。
「とに角、向こうに着いたらすぐに手紙を書くよ」
直接出かけようとは思わぬ、そんな気の弱さが幸恵には焦れったい。
それが正三の限界だと分かってはいるのだが、“お兄さんと、小夜子さん。だめかも”。
そんな思いが、幸恵に過ぎった。
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