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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (七十一) 

2021年02月11日 外部ブログ記事
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 宣言どおりに小夜子は、あの日から程なく東京に旅立った。
茂作は当然の如くに、烈火の如くに怒った。
しかし、小夜子の家出宣言の前には、いかな茂作も折れざるを得なかった。
結局、茂作の知人宅に世話になるということで妥協した。
苦渋の選択ではあったが、夜のバイトも認めざるを得なかった。
借財まみれの茂作では、如何ともし難い経済状態だった。

 意気揚々と東京に出た小夜子は、日中は英会話の学校に通い、夜間をナイトクラブでのタバコ売りに費やした。
毎日の睡眠時間は五時間弱程度だったが、見るもの聞くもの全てが驚きの連続で、辛いという気持ちは全くなかった。
茂作の知人である加藤は「出世払いでいいから、夜のバイトは辞めなさい」と、事ある毎に小夜子に告げた。
しかし当の小夜子にしてみれば、学校よりもナイトクラブに魅力を感じていた。
何より、ジャズの生演奏が聞けることが嬉しかった。
そしてまた、給金以外のチップ収入も魅力的だった。

 毎回高額のチップを渡す、中年男が居る。
そしてその度に「今度、社長を連れてくるよ。お付き合いして損のない方だから」と、口説かれる。
しかし小夜子は「私には、決めた男性が居るんです」と、固辞し続けた。
「正直な女性だね、益々気に入った。是非にも、逢わせなくちゃな。
店の中でなら、いいでしょ?」と、なおも食い下がる。
「でも……」

 困った表情を見せつつも、悪い気はしない。
田舎ではモダンガールとして通っていた小夜子も、さすがに東京では田舎娘だと自覚させられる。
同じ洋服を着ても、どこか借り物に見えてしまい、化粧をしてみては、けばけばしく感じる。
失いかけた自信を取り戻すために正三に手紙を書いてみるのだが、一向に返事が来ない。
来るのは、茂作の愚痴ばかりの手紙だ。
それとはなしに正三のことを茂作宛の手紙に書いても、“元気そうだ”といった類の文字があるだけだった。

 正三はと言えば、小夜子からの手紙を心待ちにしていた。
毎晩の如くに小夜子の夢を見ては、朝に溜め息を吐く日々を送っていた。
“もう僕のことは、忘れてしまわれたのか?”。
そんな悶々とした日々を送る正三だが、小夜子の住所を知らぬ為手紙を出すことも出来ない。
出す当てのない手紙が、机の中に溜まっている。
茂作に聞けばいいのだが、何故か気後れしてしまう。
それでも意を決して一度尋ねてみたが、「お前が唆したのか!」と、一喝されてしまった。

 まさか正三の両親が、小夜子からの手紙を隠し持っているとは露知らぬ正三だった。
友人たちに話しても、「そりゃ、東京に好い男ができたのさ!」。「振られたな、諦めな!」と、にべもない。
ただ一人、幸恵だけは正三を力づけた。
「小夜子さま、お忙しいのよ。お兄さまと違って意志の強いお方ですもの。
勉学に励んでいらっしゃるんだわ。
それよりもお兄さまも、準備をされなくちゃ。
逓信省にお入りになるんだから、それなりのお勉強を権藤のおじさまを落胆させないにしなくちゃ」

“そうだった。もうすぐ、上京できるんだ!”。
そう思うことにより己を慰めてはみるものの、連絡を取る術がない。

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