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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (四十八) 

2020年12月22日 外部ブログ記事
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 兄である本家の繁蔵も、
「分家の嫁如きに、大枚の金員を遣うことなど罷りならん!」という、大婆の意向には逆らえない。
澄江の実家からも、やむを得ぬ仕儀じゃとの声が聞こえてくる。
茂作のただ一人の味方である初枝から、「これで栄養を」と渡される卵だったが、それすら大婆に止められてしまった。

「永くはない、好きなことをさせてあげなされ」
 そう宣告されてから、二年を頑張り続けた澄江だった。
小夜子の入学を見届けたいと、執念の澄江だった。
“家がビンボーだから、誰も助けてくれない。金持ちにならねば、本家に嫁がねば、殺されてしまう”。
偽らざる、小夜子の思いだった。

 そしてそれから、本家と呼ばれる家々の娘たちに敵愾心を抱くようになった。
お嬢さま言葉を使い始めたが、父親譲りの美少女ぶりが、それらの所作を際だたせていた。
他の誰よりも、様になっていた。
本来ならひんしゅくものなのに、いつしか誰もが認めるようになっていた。
茂作はそんな小夜子が、愛しく感じられてならない。

“この娘だけは、幸せにしてやらねば。
ミツそして澄江、わしに甲斐性がないばっかりに……。
小夜子には、みじめな思いなどさせてなるものか”

「小夜子さん、小夜子さん。大丈夫?」
 前田の声にすぐに反応しない小夜子を、アナスターシアが心配げに覗き込んでいる。
強い光を発するフラッシュに、体調を崩したのでは? と、気にしている。
「違うの、違うんです。ちょっと考え事をしてたんです。ごめんなさい、アナスターシア」

 明るく答える小夜子に、アナスターシアが言った。
「小夜子には、アーシアと呼んで欲しい。あたしの妹だもの、当然よ。さあ、呼んで」
 アナスターシアのすがるような瞳に、驚いたのは前田だ。
アーシアと呼べる者がいるとは聞いていたが――世界でも片手ほどの小人数だと噂されている。
よほどの信頼を受けない限りには呼ばせない。

あの親代わりに世話をしているマッケンジーですら呼ばせないのだ。
昨日開催されたファッションショーで出会い、その後のわずかな時間を共にしただけの小夜子に対して、自らアーシアと呼んでくれと懇願しているのだ。
信じられぬ思いだった。
“そんなにも思いが強いの?”口には出来ぬが、強く聞いてみたいと思う前田だった。
しかし 小夜子には何のことか分からずキョトンととしている。

 明日には日本を離れるアナスターシアが、突然腰をくねらせながら、小夜子を手招きする。
夕食を食べ終えて、誰もが無口になっている時だった。
明日の別れを口にすることが、怖い。
「オイデ、サヨコ……プリーズ」

 やわらかく手を動かすアナスターシア。
波を表現するかのようなその動きに合わせて、横に腰をくねらせながらのカニ歩き。
何ともひょうきんな動きに、つい小夜子も笑ってしまった。
「ノー、ノー!」
 口を尖らせるアナスターシアだが、目は笑っている。
「ハワイのフラダンスという、踊りですって。
一緒に踊るよう、言ってるわ。
さ、並んで踊りましょ。最後の夜なんだから」

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