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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (二十六) 

2020年10月29日 外部ブログ記事
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 涙を拭いてから、居住まいを正して、茂作に正対した。
「お大尽な暮らしを望んだわけじゃないわ。
体を動かすことは好きだし、みんなのお役にも立ちたかったし。
でね、御三どんを手伝ったの。
お洗濯はね、すっごく難しいの。お芝居で着る着物でしょ? 
優しく洗ってあげなくちゃいけないの。中には洗っちゃいけないものもあったりしてね。
濡れ手ぬぐいを固く絞って、それで汚れている部分をね、叩くの。
おしょう油なんかこぼした時みたいにね。
初めは分かんないことだらけで、しかられてばっかり。
でも、すぐに覚えたから、座長さんにほめられたりもしたのよ」

「うんうん、そうかそうか」
 目を輝かせて話す澄江に、茂作は目を細めて頷いた。
「でもね、でもね、……」
「うん、どうした? なにがあった?」
「ヒマを出されたの、家に帰れ! って」
「そりゃ、どういうことだ? まさか……病にかかったとか、それで、か!」
 気になっていたことを口にした茂作だった。
まさか病気をして、それが原因でむくみが出たのでは? と、思ってしまった。
「そうなの……それでなの」
 まさか、という返答が返ってきた。

「そうなのって、澄江。病だからと追い出されたのか」
「いや、そうじゃなくて…」
 口ごもった澄江は、中々次の言葉を発しなかった。
「はっきり言うてみい。どうした?」
 茂作の頭の中に、二文字が渦巻いた。
女が男についていったのだ、当たり前のことなのだ。
しかしどうしても、口にすることができなかった。
「実は…赤ちゃんができたの。慶次郎さんの赤ちゃんが」
「なに! それじゃ、なにか。澄江が身ごもったから、働けなくなったから、それだから追い出されたと言うのか!」
 つい大声を出してしまった、澄江を詰るような大声を。澄江は体を小さくし、俯いた。

「なんてひどいことを……ううぅ…」
 吐き捨てるように言うと、カッと目を見開いて澄江に問い質した。
「いま、どこで興行してる。直談判してくる。
澄江は、ここで待ってなさい。この家から一歩も出るんじゃない」
「ごめんね、ごめんね。お父さん、ごめんね。心配ばかりかけて、悪い子だね、澄江は」
 ボロボロと大粒の涙をこぼす澄江を見て、強く言い過ぎたかと気になった。
(いかん、いかん。また澄江が家出してしまう。
澄江は悪くないんじゃ。悪いのは男のほうじゃ)
「もう休め、わしも休む。澄江が悪いんじゃない。澄江は悪くないぞ。さあ、寝よう」
「一緒の部屋でいい? 小っちゃい時みたいに、お布団並べていい?」
「もちろんだとも。そうしょう、そうしょうな」

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