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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (十九) 

2020年10月14日 外部ブログ記事
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 電柱の陰から、二人を盗み見している茂作がいた。
小夜子の快活な笑いが気に入らない茂作だった。
“わしにはあんな笑顔なんぞ、ついぞ見せたことがない”。
メラメラと燃え上がる炎に、茂作の顔が赤くなった。
“あっ、あっ。駅舎に入っていく。行くか、行くか。やはり、わしが代わりに行くか”

 今朝、小夜子に釘を刺された茂作だった。
「いいこと、お父さん。正三さんとお約束したんです。今さら、しゃしゃり出ないでね!」
 きつい口調の上に、目の光も強かった。
茂作ゆずりの頑固さを持つ小夜子に「しかしの…」と、言葉を濁す茂作だった。
 駅舎に二人が消えたことを確認した茂作は、
“まあ、小夜子のことじゃ。滅多なことはなかろうて”と、得心はいかぬけれども止むを得まいと、肩を落として歩き出した。

小夜子が茂作に反発するのも初めてではない。いや、素直に従うことの方が少ない。
分かったわ、と言われる方が心配の種になる茂作だ。
“小夜子から母親を奪ってしまったのはわしじゃ。
素直すぎるぐらいに素直な娘だったが、それが仇となってしまった”と、今さらながらに後悔の念に囚われている。
そしてその小夜子の母親に対しても、償いきれぬことを抱えている茂作でもあった。

 二人が無人の改札を通りホームに立つと、程なく汽車が入ってきた――真っ黒い煙りを吐きながら、黒光りするその精悍な機関車が入ってきた。
「いいねえ、お二人さん。こんなに朝早くに、逢い引きかい?」
 汽車から降りてきた車掌が声を掛けてきた。
「ち、違いますよ。そんな、逢い引きだなんて。失礼ですよ、僕なんかじゃ。ねえ、小夜子さん」
 やに下がった顔で、正三が言う。恐る恐る小夜子を盗み見すると、小夜子はニコニコと笑っている。
「ほら、ほら。お嬢さんは、その気らしいよ。ま、がんばんな!」
 なおも車掌がそやした。
“え? 小夜子さん、嫌がってないぞ。脈ありか?”
 小躍りしたい正三だった。

「小夜子さん。汽車賃は、ぼくが払いますから」
 正三が、突然に申し出た。
「大丈夫です、任せてください」
 胸を張って答える正三だ。晴れ晴れとした思いの、正三だ。
“今日は、男を見せるんだ。なあに、参考書代がある。大丈夫!”
 太っ腹な己を見せて、小夜子の気を引こうという算段が正三にある。
“やっぱりね。で、幾ら持ってらっしゃるの? 今日は、全部遣ってさしあげますわよ”
 してやったりの小夜子だった。小夜子の、声にならぬ本音だ。
自分にどれだけの金員を遣うのか、それで相手を値踏みするところのある、小夜子だ。
 小夜子十七才、正三十八才の、青春真っただ中の時だった。

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