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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (十五) 

2020年10月06日 外部ブログ記事
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 本家で聞かされたレコード盤による演奏に感銘を受けた小夜子は、どうしても生演奏を聞きたくなった。
しかし生演奏を聞かせてくれる場所は都会にしかなく、しかもこういったキャバレーのみだ。
ひと月の余、茂作におねだりを続けてやっと念願が叶った。
「素敵だったわ。やっぱり、生で聞くと違うわ。うふふ…。
みんな、何て言うかしら。きっと羨ましがるわ。お父さん、ありがとう!」

 そんな小夜子の喜ぶ顔を見るのが、茂作には何よりだった。
手痛い出費ではあったが、“なあに、今度は儲けられるさ。
仲介業者も代えたことだし、大勝負を仕掛けてやる。
それで、今までの損を取り返してやる”。

 初めの内こそ儲かっていた小豆相場も、ここの所は損が続いていた。
「ドーン! と、行きましょう。倍々で行けば良いんです。
多少の損は目をつぶりましょう。一回当てれば、大きいんだから。
私だってね、一緒に勝負するんですから。
勝ち負けは、時の運だ。続けることが、大事なんです」

 それが、命取りだった。湯水の如くに注ぎ込んでしまった。
もう、茂作の手に負えるような金額ではなかった。
毎日のように「カネハラエ」の、電報が届く。
しかし「次の勝負に勝てばお釣りが」という思いが離れない。

「お爺…じゃなかった、お父さん」
 一瞬ムッとした茂作、祖父ではあるが父親として接してきた茂作だ。
「お父さん。ちょっとお願いがあるんだけど…」
 上目遣いでめをしっかりと見開いて、肩に手を置き、そして顎を乗せてのおねだりポーズをとった。
「うん、どうした?」
 やにさがった顔で、茂作が新聞から目を離す。

「この間はありがとう。ほんとに感激したわ。やっぱり、生バンドはいいわ。でね…」
「ちょっと待ちなさい。いくらなんでも、そうそうは行けんぞ」
 小夜子の言葉を遮って、茂作が顔をしかめた。
「うん、もう! 違うわよ、ちがう! もう、いい。爺には頼まない!」
 膨れっ面で、立ち上がった。不機嫌なときの“爺”という言葉を残して、立ち去ろうとした。
慌てた茂作は、小夜子の手をとってひたすらに謝った。

「悪かった、悪かった。機嫌をなおせ、小夜子」
 お膳上の大福餅を指差して座らせた。
「さあ、これでもお食べ。で、どんなことだ?」
「また、大福? 本家じゃ、チョコレートを食べたってよ。
でもいいわ。お父さんも食べて。小夜子、半分でいいから」
 不平を洩らしつつも、半分を手渡した。
茂作を喜ばせる術を知り尽くした小夜子だ。
満面の笑みを浮かべて受け取る茂作に、改めておねだりを始めた。

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