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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛物語り 水たまりの中の青空 〜第一部〜 (六) 

2020年09月15日 外部ブログ記事
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 昭和二十一年春、日用品を主に取り扱う富士商会が新橋闇市の一角に設立された。
 武蔵と五平、そして事務員一名に社員が三名の小さな商店であった。
食べ物屋が軒を並べる人通りの多い通りではなく、その一本裏手の通りで、ヤミ市の端っこともいうべき場所に店を構えた。
顔役の名前のある大きな花輪が、これみよがしに店先に飾られてあった。
「もっと真ん中に、でんと構えましょうや。こんな人通りの少ない場所じゃ、お客の目に留まりませんぜ。顔役の後ろ盾もあることですし」
 不満顔で訴える五平に対して
「ここでいいさ、どうせいち時のことだ。一年、いや半年もしたら、このヤミ市から抜け出してみせるぜ」
 と、武蔵は請け合わない。
「それにだ、毎日の荷の受け入れがあるんだぞ。人が多けりゃ邪魔になるじゃねえか」
 武蔵のひと言ひと言が五平には重く感じられる。
“まったく武さんにゃ叶わねえ。てめえのあほさ加減がいやになるぜ”

「はいい、らっしゃいませえぇ!」
「はあい、品物たっぷりありますよ!」
「いらっしゃいませえ……」
 大声を張り上げる二人に挟まれて、蚊の鳴くような小声が聞こえる。
「おい、もっと大声で呼び込め。お客が来ねえと、俺たちの給料が出ねえぞ」
「そうだ、そうだ。お前だけ、なしだぞ」
 開店当日、閑古鳥の鳴く状態だった。
朝七時に店を開けて、昼どきの今に至るまでに訪れた客は、わずか三人だった。
のぞき込む客が居るにはいたが、十個縛りの品物を一個で良いんだがと言ってはすぐに追い出されてしまった。

[素人さん、個人客、お断り!]の看板が、やはりのことに響いた。
「社長! もう、背に腹は代えられねえ。
個人客もオーケーにしましょうや。ばら売りでもいいじゃねえですか」
 五平が武蔵に泣きを入れた。社員たちも一斉に、五平に賛成した。
「いや、だめだ。卸で行くと決めたんだ。まあ待て。夕方には、どっと客が押し寄せるから」
「ですが、社長…」
「忘れたのか、五平。資金集めだと個人客に売った時のことを。
ちまちまやっても、大した稼ぎにゃならねえよ。明日も、どーん! と荷が入るんだぞ」
「ですがねえ…。ほんとに、来ますかねえ」
「おい、お前ら。昼飯を喰ったらな、この板を持って、辻々に立て。
何も言わなくていい。聞かれたら、『本日開店です』って、小声で言え。
小声だぞ、いいな。その方がな、効果あるんだ。内緒話に見えるようにな」
 持たされた板切れには、矢印が書いてあるだけだった。
怪訝そうな表情ながらも、社長命令だからと、頷いた。

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