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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛物語り 水たまりの中の青空 〜第一部〜 (四) 

2020年09月10日 外部ブログ記事
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 ほとんど90度に近い最敬礼をした後に、指示されたソファに座り込んだ。
背筋は伸ばしたままで、両手も膝で揃えた。
どんな仕草で難癖をつけられるかもしれない、と生きた心地のしない五平だった。
それに対し、武蔵も背筋こそ伸ばして両手も膝に揃えられてはいるが、少し口元が緩み緊張感もとれているように感じられた。
“武さんはヤクザの怖さを知らないのじゃないか”。
そんな危惧感が五平には感じられた。

「お初にお目にかかります。わたくし御手洗武蔵と申します。
若輩者ですが、どうぞよろしくお見知りおきください」
「わ、わたくしは、加藤五平です」
 落ち着いた声の武蔵に対し、五平の声は掠れている。
深く沈み込むように座っている顔役が、ゆっくりと武蔵たちが贈ったキューバ産の葉巻をくゆらせている。
二人の態度に満足そうに頷くと「早速試させてもらっていますよ。まあそう緊張なさらぬように」と、歯を見せた。

「ここの端っこに富士商会という屋号で、雑貨卸をやらせていただきます。
親分さんのご了解をいただきたく、お伺いしたようなわけでして。五平、おみやげを親分さんに」
 風呂敷包みをテーブルの上に乗せた途端に一人が顔役の前に移り、もう一人が五平の前に立った。
「決して出所のおかしな物じゃありません。
親分さんには包み隠さずお話しますが、どうぞ他へはお洩らしにならぬように」
 驚く五平に対し「親分さんなら大丈夫、義侠心のお方だから」と、制した。

「GHQでございます。この加藤の親戚筋が、GHQにコネがありまして。
ま、いろいろ手を尽くしたわけでして」
 さすがのGHQで、その威光には顔役といえども歯が立たない。
「あたしらはね、半端者です。額に汗して働くことができない、クズ共の集まりです。
ですがね、堅気さんたちをね、理不尽なことからお守りするためにゃ、命を賭けます。
筋の通らないことは、決して許しません。御手洗さんでしたな、ご商売に精をお出しなさい。
事あるときにゃ、あたし等が、命を張ってお守りしますよ」

 柔和な表情の中でも、眼光の鋭さは消えない。
「ありがとうございます、何よりのお言葉です。
それでは店が立ち上がりましたら、改めて伺わせていただきます。
本日は貴重な時間をいただきまして、まことにありがとうございました」

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