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敏洋’s 昭和の恋物語り

えそらごと (九) 

2018年07月31日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 店に戻ってダメ元だと思いつつ、
「いつもに比べてエンジン音が違っているし、アヒルの鳴き声みたいなんです。
それに、ブレーキの効きが悪くなってますし…」
と主任に車の異常を報告した。

「音だって? お前さんの運転ではうるさいわな。
ブレーキ? そんなことは自分の自慢の腕でどうにかしろ。
急ブレーキをかけなきゃいいことだし、サイドにしたってギアをローに入れておけば問題ない」
と、予想通り相手にしてもらえなかった。

(ケッ、何とまあ調子のいいことを。
自分の腕でカバーしろだって。
いつも『人間の勘とか腕だとか、そんなものに頼ってはいかん。
おかしいと思ったらすぐに報告するように』
なんて、いつも言ってるじゃないか)。
心内で愚痴りながら、後ろ向きの姿勢で思いっきり舌を出した。

 苦笑しながら話を聞いていた事務員の一人が「また叱られたわネ」と声をかけてきた。
口を尖らせながら「別に」と答えて「明日の休み、車でスカッとしようかな」と、
(借りられるよう、頼んでくれるかな)と目で合図した。

元来女性との会話が苦手な彼なのだが、不思議に五歳年上の女性事務員の貴子とは苦にならない。
いつも軽口をたたき合っている。
「社長令嬢だよ、仮にも。少しは言葉遣いを考えたら」
と岩田が忠告するが、「関係ねえよ、そんなの」と受け合わない彼だ。

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