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敏洋’s 昭和の恋物語り
えそらごと (六)
2018年07月03日
テーマ:テーマ無し
部長の受領サインを貰えば済むのだけれども、やはり待つことにした。
岩田の言が頭から離れず、といって信じられないという気持ちもまた消えずにいた。
昨日も一昨日も顔を合わせているけれども、岩田の言う素振りは一度として見たことがない。
好意を持たれていると感じたこともない。
だけど…と思ってしまう自分が情けなくもあり可愛くも感じる。
仕方なく、窓から外の景色を眺めた。
相も変わらず激しく渋滞しながら、車が行き交いしている。
車の保有台数は、全国的にも多いと聞かされている。
家内工業が多いせいだろうと、教えられた。
だから運転には気を付けるようにと、毎日の朝礼で訓示される。
(車が半分に減ったら、確実に事故が増えるぞ。
減ることはないって。
岩田は減ると言うけど、絶対に増える。
車が多いからこそスピードが出せないんだから)。
そんなことを考えていると
「ホント、車が多いわね。半分くらいに減ったら、事故も減るでしょうに」
と、本田が近付いてきた。
背筋に水が流れた直後のように背筋を伸ばして「そ、そうですね」と答えてしまった。
何と言うことだ。実に情けない。
裏腹のことを答えてしまったと、自分に腹が立った。
しかも、卑屈にもうろたえてだ。
昨日までは何も意識していなかった彼女の存在が、今はドギマギさせる。
伝票にサインをもらうと、それ以上の言葉を交わすでもなく、そそくさと店を出た。
本田は、美人でもなければ不美人というわけでもない。
彼の好みかといえば、そうでもない。
というより、彼には好みそのものがない。
年齢は不確かだけれども、彼よりは上だ。
といって年上はいやだ、という気持ちはない。
彼にとっての異性は漠然としたものであり、実体がないのだ。
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