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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (九十二) 

2016年08月01日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



その夜、寮に帰ることを頑なに娘は拒んだ。
「おじさんのこと気に入ったからさ、もう一度だけでいいからさ」

男は、もう、お恵は抱けないよと何度も言い聞かせるが、娘は納得しなかった。
「だってさ、マミちゃんやらユカリにさ、自慢したいんだもん」

仲間に対して説明ができないと言うのだ。
昨夜のことは、殆ど覚えていないのと強弁した。

今夜はきっと冷静でいられるからと、懇願もした。
男には理解できない娘だ。

男達は時として自慢げに、あの娘を落とした! と、話すことはある。
しかし、その相手の女性は嫌うものだった。

 結局のところ、男が折れてもう一晩をこの町で過ごすことになった。
高原を後にしたのは、そろそろ陽も傾き始めた頃だった。

行きの途中に買い求めた菓子パンでお昼は済ませたことから、夕食時の量は凄かった。
ラーメンが好きだという娘の希望通りに中華料理店に入ったのだが、ラーメンにチャーハンにそして野菜炒めと、次々と注文していく。

「普段は、こんなに食べないよ」と、はにかみつつもその全てを平らげた。
気持ちのいい食べっぷりに、男はにこやかな表情を娘に向けていた。

「ああ、満腹、満腹!」と、お腹をさする様はあどけない少女そのものだった。
娘は、「おじさんだから、素を出せる。ユキオ君の前では、出せないよ」と、笑いながら言った。

「早くホテルに行こう!」とせがむ娘に、男はチェックインだけを済ませ映画館に連れ込んだ。
できるだけ時間を稼ぐつもりだった。
娘を疲れさせ、早く眠りに誘いたかった。

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