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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](五十) 

2016年05月29日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「ねえ、お客さん初めて? じゃあ、童貞なんだ、ラッキー!」
慣れた手つきでビールをコップに注ぎ、男に手渡した。
「はい、カンパーイ!」
男は、一気にビールを飲み干した。

美人ではないが、人なつっこい顔立ちだった。
男は、今までの暗く沈みがちだった気持ちが、和らいでくるような気がした。
騒音としか思えなかった音楽も、流行りのポップスのせいか気持ちが次第に高揚してくる。

「マリ、今夜はすっごく嬉しい。お客さんみたいな、いい男の席に着けられて。
ねえ、気持ちいいことしてね」
と、ホステスの手が、男の手を自分の胸元に誘い込んだ。
突然のことに、男は驚きつつも
「マリちゃんだっけ。さっき童貞って言ったけど、どういう意味なの?」
と、尋ねた。 

「ああ、童貞の意味? この店、初めてでしょ。だ、か、ら。うふふ」
と、耳元に吐息をかけた。
「マリねえ、今夜は最悪だったの。約束をすっぽかされちゃってさ。
男って、あれねえ。思いをとげたら、おしまいなのねえ。
この世界に入って、まだ一年足らずなんだけど。
お姉さんに注意されてたのに‥‥。はい、辛気くさい話はお終い。楽しくやりましょ!」
「よし。ふられた者同士、ぱあっと騒ごう!」

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