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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (四十四) 

2016年05月16日 外部ブログ記事
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翌日、男の元に受付嬢から連絡が入った。
面会だと言う。男に約束はない。

ミドリ? とも思ったが、初老の紳士だという。
とに角ロビーに行くから、と電話を切った。

名前は告げないと言う。
一旦は、受付嬢も断ったらしいのだが、頑として譲らないという。

社の規則で、名前を聞かなければ取り次げないことになっている。
それでも連絡が入ったということは、余程のことだ。

怪訝な思いを抱きつつ、階段を上りロビーに顔を出した。
柱の陰から覗き見てみたが、見覚えがない。
といって、受付嬢を困らせるわけにもいかないし、守衛を呼ばれて騒ぎになっても困る。

身なりは紳士然としている。
薄茶色のダブルのスーツを着込んでいて、恰幅の良い体型をしている。

人違いかも? と思いつつ、
「どうも、お待たせしました。御手洗ですが」
と、その紳士に声をかけた。

「き、貴様ー!」
突然、その紳士が殴りかかってきた。

男は、慌てて体をかわすと
「いきなり何ですか! 失礼ですが、どなたですか?」
と、応じた。

受付嬢が咄嗟に、守衛に連絡を取ろうとしているのが見えた。
周りも、何事だと、騒然としている。

「いいよ、いいよ」と、受付嬢に声をかけ、
「ここでは何ですから、こちらへ」と、男は守衛への連絡を止めさせた。

そしてその紳士を、窓際の応接コーナーに押し込むように連れて行った。
衝立で仕切ってあり、とりあえずはロビーからは遮断されている。

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