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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (四十二) 

2016年04月23日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



週末、昼少し前にミドリから電話が入った。
男から電話をかけることがためらわれていたので、そのことを先ず謝った。

「ごめん、ごめん。気にはなっていたけれど、男からの電話は迷惑だろうと思って、できなかたよ。
この間の夜は、悪かったね、送っても行かずに。
大丈夫だった? 相当、叱られたんだろう」

「いえ、こちらこそ失礼しました。家族にはうまく話をしていますので、ご心配なく」
ほんの、二、三日前のことだったが、男には、長い間会っていないような気がする。

「何しろ、男の方と二人だけのお酒なんて、初めてのことでしたから。
それに、ああいった場所も初めてでしたし。
でも、ホントに楽しい夜でした、また連れて行ってください。
その時は、私が介抱してさしあげますから」
ミドリは、初めてという言葉を何度も強調した。

「いやいや、僕の方こそ楽しかった。
それに、いい目の保養になりました。次回もまた酔って下さい。
あ、これはいかん、目を閉じてて見てないんだった。
そう、見てないですから」
余計なことを言ってしまったと、少し後悔したが、ミドリの反応を確かめてみたいという気持ちも、ないではなかった。

「マッ、ひどい方。でもホントに苦しかったんですよ」
消え入るようなミドリの声に、安堵した。
やはり、悪い感情は持っていないようだと、嬉しくなった。

「今日お電話しましたのは、この間のお礼をと思いまして。
ご迷惑でなければ私の手料理でも食べていただこうかな、と。
それで、明日にでも‥‥」

消え入るような小声だった。
かろうじて、「お礼」「手料理」「明日」と、聞き取れた。
男は、念を入れる意味も込めて答えた。

「ほお、ミドリさんの手料理を明日食べられますか。
嬉しいなあ、そりゃ。是非にもお願いしますよ」
「それでお願いなのですが、 あの個室で酔いつぶれたことは、内緒にしていますので、お話を合わせて欲しいんです。
実は、このことも両親の勧めなんです」

「クラブに行ったことはご両親にお話されたのですか。
そうか、それでは二人だけの秘密ですね」

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