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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十七) 戸口から広々とした土間に入ると 

2015年10月07日 外部ブログ記事
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戸口から広々とした土間に入ると、左側に大きな部屋がある。
その奥には仏間があり、その二つの部屋に縁側がある。
そこから、燦々と陽光が差し込んでいた。右側に小さな部屋があり、
「ここ、由香里の秘密の部屋なの。お父さんもお母さんも、入室禁止にしているの。
でも、先生だけには、入室を許可してあげるね」
と、嬉しそうに指差した。

その小部屋の先は通路になっていて、そこから一旦外に出て便所に行くらしい。
通路の反対側が台所なのだが、ガラス戸で仕切ってあった。
小部屋の土間側は窓になっているが、磨りガラスになっていて中は覗けなくなっていた。
然もご丁寧に、大きなポスターとカレンダーが貼り付けてあるようだ。
全くの、別世界としている。

台所もガラス戸なのだが、開け放たれていた。
中央に囲炉裏端があり、田舎然とした趣があった。
天井を見上げると、梁が剥き出しになっている。
然も、黒光りがしている。かなり古い平屋のようだった。

「こちらに移り住む折には、少し手を入れるつもりなんですけどね」
キョロキョロと見回している彼に、母親が声を掛けてきた。大きな旅行鞄を、手にしている。
慌てて彼は、
「気が付きませんでした、お持ちします」
と、母親から鞄を受け取った。

「ごめんなさいね。主人ったら、まだ起きないんですよ」
「お疲れなのでしょう。良いですよ、僕が全部運びますから」
持ち込んだ荷物の整理が終わった頃、やっと父親が起きてきた。
「いやあ、済まん。つい、眠ってしまった」
「なんですねえ、今頃。先生が全てやって下さいましたよ」

「悪かったですなあ、先生」
「とんでもないです。この位やらなくちゃ、罰が当たります」
胡座をかいて一休みしていた彼は、慌てて正座をした。
座敷に上がりこんだ父親は、由香里の姿が見えないことに気が付き
「由香里は、どうした?」
と、母親に問い掛けた。
「お部屋ですよ。先生をご招待するのに、お片付けをしています」
「そうか‥‥」
心なしか、淋しげな表情を見せる父親だった。

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