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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十七)話に乗らないようにね 

2015年09月28日 外部ブログ記事
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四十半ばの女性が、彼の背を支えた。
背中に宛がわれた両の手は暖かく、冷え冷えとしている彼の体に、じんわりと暖気が入り込んでくる。

「学生さんだったわね? このアパートでは珍しいわね。
あなた、お酒なんか飲むんでしょ? 翌日、辛くない? 
良いのがあるのよ。シジミのね、エキスがたっぷりと‥‥」
気さくに声をかけてきたが、アパートの管理人に「話に乗らないようにね」と、忠告されている。

「お隣さんには気をつけなさいよ。悪い人じゃないんだけど、お節介焼きなの。
どうしてあんなによそのお宅のことに首を突っ込むのかしら」

二年ほど前になるのだが、管理人に対して、しつこく「お酒にやられた肝臓に、よく効くのよ」と、シジミエキスが入った錠剤を勧めてきた。
悪気がないことは分かっているのだが、当の本人が飲むはずがない。
貝類が嫌いで、その匂いがするだけで、機嫌が悪くなってしまう。

町内会の宴会が小料理屋で行われた折に、シジミの味噌汁が出されたことがある。
和気あいあいとした雰囲気の中、軽口を叩いていたが、その匂いが鼻についた途端、「帰る」と理由も告げずに席を立ってしまった。

そんな夫に対して、体に良いと分かってはいても飲ませるわけにはいかない。
「ごめんなさいね、遠慮しておくわ」と何度も断るのだが、「味も匂いもほとんどしないのよ」と、隣人も譲らない。
終いには「少しお裾分けしてあげるから、シジミエキスだと言わずに飲ませてあげなさいな」と、五粒ほどを置いていった。

小皿に置かれた錠剤の匂いをかいでみるが、確かに匂わない。
それでは試しにと飲ませてみると、口に入れた途端にシジミの味がしみ出した。
怒髪天をつくという表現がピッタリなほどに、顔を真っ赤にして声を荒げた。
そしてそれだけでは我慢が出来ぬとばかりに、小皿を床に叩きつけて怒りをあらわにした。
これほどまでに怒り狂った夫を知らぬ管理人は、兎にも角にも平身低頭して謝るだけだった。
以来、隣人との付き合いをやめてしまった。

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