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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十六)迫真の演技だったでしょ 

2015年09月05日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



呆気にとられている彼に気付いた女性は、
「ねえねえ。少し、付き合わない? 正直、飲み足りないのよね」
と、声を掛けてきた。
「えっ、さっきまで…その…戻されたんでしょ?」
「アハハハ。見てたの? 迫真の演技だったでしょ。戻してなんかないわよ、そう見せかけただけ」

「都会の女は、魔物じゃ」

茂作の言葉が蘇る。彼は言葉を失った。
有無を言わさず、その女性は彼を引っ張った。
「行こっ、行こう」と、彼の腕に腕を絡めてきた。

「で、でも…。僕、貴女の事何も知りませんし…」
「そうかっ! 自己紹介しなくちゃ、ね。私、けいこ。
ほたるの子と書いて、蛍子と読むの。職業は、証券レディ。で、貴方は?」

切れ長の目が、怪しく光る。
良く見ると、美人だ。正統派美人で、目鼻立ちが整っている。
麗子とは対極にある、平安美人だった。

「ぼ、僕は、、」
「いい、いいわ。どうせ、一夜限りの男だもん。
そうねえ、アキラにしましょ。いいこと、アキラよ。
職業はねえ、そう、私の部下。今年入社したばかりの、新人証券マン。
只今、レクチュア中」

店々のシャッターが下りている本通りを、グイグイと彼を引きずるように歩いていく。
パチンコ店のシャッターには大きく「Wellcome」と描かれていた。
隣は薬局で「おめえ、へそ、ねえじゃねえか」とからかわれるカエルのケロちゃん人形がある。

その隣はそば屋さんで、デパートの井上にご馳走された店だった。
「酒の後のそばは、いい。実に美味い。ラーメンも確かに美味しけれども、ぼくは日本そばだね。
それも、信濃そばに限る。この店のそばは、信濃直送なんだよ。なあ、大將! そうだろ?」

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